Research Abstract |
節足動物カイコ(Bombyx mori)は,蚕糸生産の有用昆虫であり,その幼虫,成虫および糞は,漢方薬,民間薬として古来,糖尿病や痛風の治療などに用いられている.しかしながらこのような動物を基原とする薬用資源についての精緻な化学的,薬理学的研究は端緒についたばかりで,カイコについては韓国の研究機関において特に精力的に実施されつつあるものの未詳の部分が多い. 申請者は,無脊椎動物由来の水溶性バイオアクティブファクターの探索研究の一環として,カイコ蛹に着目し,その水溶性成分の研究を開始した.本研究では,マウスに対する血圧,体温降下(直腸体温測定)作用および鎮痛作用(対照薬アミノピリン,酢酸writhing法)を成分探索の指標とした. 前年度報告したとおり,カイコ蛹(群馬県大間々産)のメタノール抽出エキスをFolch分配(CH_3Cl-MeOH-H_2O=1:1:1 v/v)し,得られる上層可溶画分を0.15g/kg〜0.90g/kgのレンジでddY系雄性マウスに投与し,血圧,体温降下および鎮痛作用を検討したところ,いずれにおいても有為な結果が得られた.そこで引き続き,同画分について種々のカラムクロマトグラフィーによる分離,精製を行い,ニンヒドリン試薬陽性のフラクションより化合物1(白色粉末,【α】_D+1.5,MW291)を見いだし,このものの純粋単離に成功した.本化合物は,1とそのメチルエステル誘導体の恒数ならびにNMR,MS,IRスペクトルから構造解析がなされ,血圧降下作用を有する含窒素化合物,Laminineと類似の部分構造を有する新規物質と判明した*.1の絶対配置を含む立体化学については,X線結晶解析法により決定すべく誘導体あるいは重金属の塩として得られる各種結晶を調製中である.また同化合物は,ddY系雄性マウスに対し75mg/kg以上で鎮痛作用を示した**.現在,その吸収と動態実験の為,定量可能な1の誘導化体の調製法を確立しつつあり,さらに同化合物の血圧,体温降下についても,同上層可溶画分に存在する他の活性化合物群とともに検討中である. *日本農芸化学会1999年度大会で発表,99.3.31福岡 **天然有機化合物2000年会議で発表,99.7.29アムステルダム
|