Research Project
Grant-in-Aid for Encouragement of Young Scientists (A)
本研究では、毒化機構の総合的な理解を目指すための基礎的研究として、(1)広島湾で分離された渦鞭毛藻Alexandrium tamarenseについて、細胞周期のどの時期に毒が生産されているのか?(2)実際の海洋環境(広島湾)においても同様の現象が起こっており、群集全体の毒量の変化に影響しているのか?を明らかにすることを目的とした。まず、A.tamarense培養の同調化について検討した結果、A.fundyenseで成功している明暗法では同調化しないことがわかった。そこで、非同調培養系のまま培養条件を変えて、細胞周期と毒生産量の変化を調べた。その結果、光制限による増殖速度の低下と共にG1期の細胞の割合が増加し、細胞当たりの平均毒性値も高くなることがわかった。このことからA.fundyenseと同じくA.tamarenseにおいても、群集全体の増殖速度の低下は、G1もしくはG0期の時間が長くなることによって引き起こされ、その間に毒の生産が行われていることが示唆される。また、このことから増殖速度と細胞当たりの毒性値が逆相関の関係にあるというこれまでの観察結果を説明することができる。広島湾における野外観測の結果からA.tamarenseの細胞当たりの毒性値は、0.28〜224pg・cell^<-1>と大きく変動することがわかった。いくつかの環境要因を分析した結果、アンモニア態窒素濃度と有意な正の相関があることがわかった。アンモニアが、高い窒素含有率の貝毒成分を生合成するための供給源となると同時に、高濃度で藻類の増殖を抑制しG1期時間を延ばすことによって毒の生産を促進していると考えられる。これらの研究成果の一部は、平成11年度春季水産学会で発表し、2編の学術論文としてJournal of Plankton Researchに投稿中である。