Research Abstract |
本研究ではまず,政策立案過程で有権者の意向が反映されないのは何故かという視点から,政策決定過程を分析し,制度的障害や人間の限定的合理性など多数の要因からなる構造を明らかにした。しかし,こうした複雑な因果関係をそのまま反映するモデルは,操作不可能や,多様な可能性を指摘するだけという問題があり,実現性の高い政策提言を行うための理論的分析ツールを提供するという当初の目的は達成されない。従って現実的で操作性の高いモデルを目指して,まず,政策を立案できるのは官僚だけで,政党は官僚の作った政策案を受け入れるか拒否するかしか出来ない,という官僚,政党,有権者をプレーヤーとするゲーム理論モデルを開発した。 しかしながら,昨今の行財政改革,教育改革など各種制度改革の実態をみると,改革志向の政治家が世論や専門家の意見を参考にしながら発案した政策(方針)に,既得権益を持つ,利益団体,官僚,族議員などが抵抗するという図式が見て取れる。そこで,最終的には,最近の経済学の理論的成果である,情報の経済学,比較制度分析,体制移行の経済学の成果を基に,上述した日本の制度改革の現実を反映させ,政治家の提案に始まるゲーム理論モデルを開発した。モデル分析から,改革のもたらす効率化の成果分配と,既得権益の大きさの関係や,不確実性や限定合理性の程度の重要性が明らかになった。 しかし,このモデルはプロトタイプであり,それぞれに特徴を持つ個別の政策分野別での提言に貢献できるためには,官僚や政治家が官庁,政党などそれぞれの組織内で持つインセンティブを内生化した,個別分野のモデル化が必要かもしれない。また,有権者と政策決定過程の問題を考察するためには,有権者の属する各種組織,選挙制度,マスコミも明示的に考慮したモデルの検討が必要になってこよう。
|