Research Abstract |
まず,生時の酸素要求量が遅延性けいれんの発生に関与するかどうかを確かめるために,酸素要求量の多い順に,ニジマス,マダイ,ティラピア,コイを延髄刺殺によって即殺し,室温で放置した.電子天秤を改良して振動を感知する装置を作製し,遅延性けいれんの発生を観察した.コイは,いずれも即殺時に一過性のけいれんを生じたが,致死後5分以降に発生する遅延性けいれんは発生しなかった.この一過性けいれんはおそらく延髄刺殺による機械的,神経科学的刺激が筋肉に著しい張力を発生させたために生じたものと考えられた.一方,マダイについては20個体中19個体が即殺時の一過性けいれんの後,10分から20分後に再び大けいれんを起こした.その大きさは即殺直後の一過性けいれんに比べて非常に大きなものであった.したがって,この遅延性けいれんはその発生時間および大きさなどから,即殺時の一過性けいれんとは異なる機序で発生するものと考えられた.マダイにつき,遅延性けいれんの発生前と発生後の筋肉ATP含量を調べたところ,ATPの減少は認められなかったが,遅延性けいれんを発生した個体ではIMPの蓄積が著しかった.生時の筋肉中のATP含量はクレアチンリン酸/クレアチンキナーゼ系によって緩衝されており,ATPの一時的な減少が生じても,直ちにATPレベルが回復することが知られている.遅延性けいれんが発生する死後1時間までの間では筋細胞はまだ生きており,このクレアチンリン酸/クレアチンキナーゼ系が働けるものと考えられる.したがって,遅延性けいれんが発生した場合でもATP含量が減少せず,IMPの蓄積が生じたのではないかと考えられる.また抗躁剤のレセルピンを投与したところ,マダイの遅延性けいれんは効果的に抑制された,したがって,本遅延性けいれんの発生機序について以下のように説明できる.すなわち,延髄神経などの末梢系は中枢神経系のモノアミン類によって抑制されているが,延髄刺殺によってその抑制が突然絶たれる.残存しているモノアミン類は延髄の活動を抑制しているが速やかに消失し,その反動で延髄が異常興奮して筋拘縮を起こすものと考えられた.
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