HIVenv蛋白gp160のV3領域P18ペプチドを認識するキラーT細胞(CTL)のT細胞レセプター(TCR)を単離して、TCRαとTCRβをそれぞれ発現するTCRトランスジェニック(Tg)マウスを作製した。驚いたことに、TCRβ鎖のみを発現するTgマウス由来の脾細胞をMLRで培養すると、env特異的なCTLが誘導された。このユニークな現象は、このペプチドの認識にはTCRα鎖はあまり重要ではなくTCRβのみでよいこと、あるいは短期間のMLRによって極めて限られたTCRα鎖を有するT細胞が選択・増殖すること、のどちらかに基づくと思われる。まず、TCRβ-Tg由来CTLがTCRの元になったクローンと同様の活性を有するか調べた。クローンと同様にCD8+T細胞がキラー活性を有していた。また、その細胞障害性の特異性は同じであることが判明した。そこで、誘導された特異的なCTLが発現するTCRα鎖を解析したところ、ほとんど総てがTgを作製した元のT細胞クローンのTCRα(Vα42H11)と同一であることが判明した。MLRの前のTgのCD8+T細胞におけるTCRαのレパートリーを調べたところ、同一のTCRαを有するT細胞はほとんどいないことが判った。即ち、このペプチド/MHCを認識して増殖するのは単一のTCRαβを持つT細胞であることが判明した。今まで、TCRβを固定したことによって、これほど単一なTCRαのみが選択され増幅された例はない。当初の仮説のようなT細胞の特殊な認識形式に基づく訳でないことは明らかになったが、逆に、TCRβ鎖の発現だけでもenv-特異的キラー誘導されるので、遺伝子治療の対象として有効であると考えられる。
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