Research Abstract |
完全変態類に属するショウジョウバエは,その遺伝学的解析から精力的に解析され,多くの情報が蓄積されている.それに比較し,不完全変態類に属する昆虫はほとんど解析されていない.そこで,われわれは発生生物学的および形態進化学的観点から,ショウジョウバエとは異なる不完全変態類に属するコオロギを実験対象として選び,その解析を行なうことにし,これまで実験系の確立を行なってきた.本研究においては,コオロギの系で遺伝子操作を可能にするための方法の確立を試みてきた.特にトランスポゾンの一つであるマリナーを用いて,遺伝子導入系を検討してきたが,これまでのところ良い結果はえられていない.一方,最近,昆虫の遺伝子機能を阻害する方法として,RNAiが着目されている.線虫で発見されたこの方法は,2重鎖RNAを卵にインジェクトすると,そのRNAに対応する遺伝子の機能が阻害されるのであるが,ショジョウバエにおいても使用できることが報告されている.そこでこの方法がコオロギにも使用できるかどうかを検討した.標的遺伝子としてアリスタレス(al)を用いた.ショウジョウバエのalのフェノタイプから予想して,脚の先端に変異が出現することが予想された.コオロギの卵のシンシチュウーム期に2重鎖RNAをインジェクトした結果,約8%の割合で,脚に変異が生じることがわかった.この結果は,効率はまだ悪いが,コオロギにおいて確実にRNAiが使用できることを示唆している.また,線虫において,餌の中に,2重鎖RNAを産生させた大腸菌を混ぜておくと,体内に2重鎖RNAが蓄積されるとの報告があることから,同様にコオロギにおいて調べたところ,まだ確率は悪いが有効であることが示唆された.今後,RNAi法を改良することにより,昆虫の研究に革命が生じる方法が得られる可能性がある.
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