Research Abstract |
本研究では,メチル基を部分的に重水素化することで誘起される分子固体の物性変化を調べ,回転対称性を失ったメチル基の配向秩序化メカニズムの解明を目指している. 昨年度までの研究で,様々な化合物(4-メチルピリジン,2,6-ジクロロトルエン,2,6-ジブロモトルエン,トルエン,ヨウ化メチル,メタノール)のメチル基部分重水素化物が,低温(40K以下)でメチル基の配向秩序化に伴う過剰熱容量を示すことを明らかになった.過剰熱容量は,3準位のショットキーモデルで解析され,3つのメチル基配向に相当する3準位スキームの決定に成功した.また,赤外吸収測定によっても,同様の3準位を確認した, ここで注目されたのが,3準位の間隔が化合物によって大きく異なる(2,6-ジクロロトルエン:ΔE~3meV,メタノール:ΔE~1meV,ヨウ化メチル:ΔE<100μeV)点であり,本年度は,これらの3準位のエネルギー間隔を決定する要因を明らかにするために,量子化学計算による解析を行った,計算にはGaussianパッケージを用い,密度汎関数法による単分子の基準振動解析およびゼロ点エネルギーの計算を行った.また,半経験分子軌道法による結晶中の(分子間相互作用を考慮した)ゼロ点エネルギーの計算も行った. 基準振動解析の結果,メチル基が非対称な官能基に結合している場合は,部分重水素化メチル基の分子内配向に依存して基準振動の座標が変化して,各振動モードの振動数がメチル基配向ごとに大きく異なることが明らかになった.また,同様の理由で,ゼロ点エネルギーもメチル基配向に大きく依存することが示され,実験的に観測された3準位が,3つのメチル基配向におけるゼロ点エネルギー準位であることが明らかになった. 本年度の成果により,これまで蓄積してきた一連の実験結果を矛盾なく説明することが可能になり,部分重水素化メチルの配向秩序化のメカニズム解明に向けた大きな進歩が得られた.
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