Research Abstract |
本研究では,日本産ヒメツチグリ属菌の形態学的観察及び分子系統解析を併用した分類学的研究を行い,日本産種の分類を再編成し,本属菌の自然分類体系を構築することを目指している。平成23年度は,本属菌の中でも,形態学的観察と分子系統解析に基づき,エリマキツチグリG. triplexに関する分類学的再検討を行った。エリマキツチグリは,インドネシアから記載されたヒメツチグリ属菌で,南極大陸を除く全大陸に,ごく普通に分布する。本種は外皮に,えりまき状に隆起した亀裂を形成するため,このような亀裂を持つヒメツチグリ属菌は,これまで一括してエリマキツチグリと扱われてきた。しかし,本種の子実体の形態的特徴には,明らかな変異が認められる。したがって,従来エリマキツチグリとみなされてきた種は,複数の種を包含していると考えられる。しかしこれまで,本種の分類学的再検討や分子系統学的研究はおこなわれていなかった。そこで本年度は,エリマキツチグリの形態的特徴を解明するとともに,分子系統解析を行い,その分類を再編することを目的とした。 本年度は,エリマキツチグリのタイプ標本,および世界各地から形態的に本種と同定された128標本を,さらに比較のため関連するヒメツチグリ目菌258標本を収集し,子実体の形態的特徴を観察した。系統解析には核リボソーム遺伝子のITS領域と大サブユニット,ミトコンドリア遺伝子のatp6を使用し,最大節約法及びベイズ法により解析した。形態観察の結果,子実体の大きさ,外皮の色と表面構造,内皮の色と孔縁盤の形態には,標本間で差異が認められた。一方,担子胞子の大きさや形態に明瞭な違いは認められなかった。分子系統解析の結果,供試標本では24の単系統群が検出されたが,形態的にエリマキツチグリと同定された標本は高い多系統性を示し,異なる9単系統群に分割された。さらに,これらの系統群は形態的特徴,すなわち,子実体の水平方向の大きさ,外皮の偽柔組織層および繊維層の色と形態,内皮の色,および孔縁盤の形態により特徴づけられた。またこれら9系統群は,地理的に異なる5地域に分布することも明らかとなった。以上のように,これら9系統群は形態的にも支持され,また分布域も限定されるため,それぞれを独立した種として扱うことが妥当であると考えられた。これらのことから,従来のエリマキツチグリを,タイプ標本を含む種を狭義のG. triplexと定義し,8新種を記載して,9種に整理再編した。なお,これらの結果の一部は,英文誌に論文発表したほか,国際会議等の学会で発表した。
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