Research Abstract |
我々は,1998年4月から1999年3月までの期間に3次にわたり,延べ2ヶ月間,宮崎県えびの市島内地下式横穴墓群を発掘調査した。17基の地下式横穴墓を発見し,その内の12基から28体の古墳時代人骨と,甲冑,大刀,鉄剣,鉄鏃,刀子,鉄鉾,鉄斧,砥石や貝輪などの副葬品および糞石,植物の種子(ツユクサ,エキノグサ),稲籾,繊維質の小破片,土師器,須恵器を得た。陥没していない墓を堅坑から調査できたため,保存状態は良く,追葬状況,埋葬順位,玄室の正確な形態,副葬品の帰属状況など,埋葬に関する様々な情報が得られた。1999年度は,3回の調査によって出土した人骨の復元,遺構・遺物の図面作成と若干の分析を行った。 えびの市が発掘した分を含めると島内から出土した人骨は合計184体にのぼる(2000年1月現在)。内訳は成人121体、未成人44体、年齢不詳19体になる。島内に埋葬された人々で老年に属する個体は1体のみであった。比較した縄文,弥生,古墳時代の集団では熟年の死亡者が最も多いのに比べ,島内は壮年の死亡者が最も多く,比較集団と異なる。島内を営んだ人々の寿命の短さが推定できる。未成人では,本来,乳幼児死亡率が高いはずである。しかし,若年の死亡者が最も多い島内の未成人死亡者構成は,乳幼児埋葬には別な方法があった可能性を推察させる。また,性別の内訳は,男性49体,女性49体で同数であった。 島内を営んだ人々の形質については従来の南九州内陸部の資料と異なり,高顔・高身長の個体が半数程度の男性に見受けられるが,顔面は平坦ではない。低顔・低身長がほとんどの南九州内陸部の古墳人集団とはやや異なる感触を持っている。 1998年4月に行った島内の発掘については,本年度,報告書を刊行した。
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