Research Abstract |
CuInSe_2などI-III-VI_2化合物は閃亜鉛鉱型構造を基本し,アニオンとカチオンの比も1対1であるが,カチオンが原子価の異なる2種類の原子から構成されており,強さと性質の異なる2種類の結合を内包する四面体結合構造の物質としてとらえることができる.従来の研究によればI-III-VI_2化合物のいくつかには高温域で相変態があり,高温相はカチオンが不規則配列した閃亜鉛鉱型とされてきた.しかしこの変態ではいくら急冷しても低温相であるカルコパイライト型構造の回折線が観察されること,変態熱が融解熱の約1/5と非常に大きいにもかかわらず,変態のヒステリシスがほとんどないことが挙げられる.本研究ではCuInSe_2の相変態の特徴を物性的には電気抵抗,構造には粉末X線回折,電子顕微鏡観察から明らかにし,高温相の結晶構造を提案した. 市販のIn_2Se3粉末,Cu_2Seを所定の組成になるように秤量し,石英管に真空封入,溶解した.その後,高温相領域である900℃で1時間時効し,その後石英管ごと水焼入れした.これを高温相と一応区別して高温急冷相した.この試料の一部は低温相領域である700℃,168時間時効し,水焼き入れして低温相試料とした.相の同定と相変態の進行状況は粉末X線回折で,局所構造と組織は電子顕微鏡により観察した.相変態点付近での電気抵抗変化も合わせて測定した. 低温相領域ではCuInSe_2の電気抵抗変化温度ともに抵抗は低下し,低温相は半導体であることが判る.変態点である815℃付近で抵抗は大きく減少した.高温相領域では温度とともに抵抗値は増加しており,金属的な振る舞いを示した.この結果は相変態前後で電子状態が大きく変化することを示している.抵抗の絶対値はともかく,この変化は可逆的でしかもヒステリシスが小さいという点で,DSCの結果と矛盾がない. 高温急冷相と低温相の粉末X線回折チャートは,化学量論組成の場合,両者にはピーク位置,回折強度,半値幅ともほとんど違いは認められない.急冷高温相のカルコパイライト型に由来する反射による暗視野像を撮影すると急冷高温相に見られたカルコパイライト型の1つのドメインはミクロンサイズまで大きく発達していた.もし急冷時に閃亜鉛鉱型からカルコパイライト型への相変態が起きていれば多数の核発生が同時に起こるはずであり,結果的に1つの高温相結晶は等価な3つの細かなドメインで埋め尽くされるはずである.しかしカルコパイライト型のドメインが十分発達していたことで高温相は不規則固溶体の閃亜鉛鉱型構造ではなく,カルコパイライト型構造と極めて類似した擬カルコパイライト型構造であると結論された.
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