Research Abstract |
根の状態での活発な増殖や有用物質生成が親植物に匹敵するなどの点で注目されている植物毛状根は,増殖,生成,蓄積の3つの部位からなる組織体であり,根の先端(生長点)の増殖部位では,細胞分裂が活発に行われ伸長・分枝を繰り返す低年齢の分裂細胞が存在し,生成部位では有用物質の合成が行われる中年齢の細胞からなり,蓄積部位では,有用物質を蓄積した高年齢の成熟細胞からなる.その結果,毛状根全体としては,培養中に増殖および有用物質生成を同時に行うことのできる有望な素材であり,蓄積部位からのみ有用物質を連続回収する培養が有効であると考えられる.細胞内のオルガネラへ選択的に取り込まれる蛍光色素誘導体は,ターゲティング能に優れており,そのポルフィリン誘導体等の光増感剤との複合体は,赤外線照射下で機能性液胞破砕分子と成りうると考えられる.そこで本年度は,特に,毛状根の機能発現の位置的分布の解明とその簡易的評価法の確立を行うため,セイヨウワサビまたはセイヨウアカネ毛状根の培養において,根の切断が側根の発生に及ぼす影響について検討を行った.接種のために用意された毛状根を先端から種々の位置にて切断し,得られた切片をフラスコ内で培養した.毛状根切片からは高い頻度で側根が発生し,側根の発生頻度は,調製された切片の長さ方向の位置に依存することがわかった.効果的な増殖を達成するため,2回の切断操作を伴なうセイヨウアカネ毛状根の培養を行った.切片から側根が発生したことで,生長点数が増加し,その結果,増殖が促進されることがわかった.培養時間672hで,乾燥細胞量および生長点数はそれぞれ9.6kg/m^3および1.9x10^7/m^3に達し,切断操作を伴なわない対照培養における値より,それぞれ3.6倍および4.9倍高く,毛状根の位置的機能発現分布は,増殖的にも重要であることが示された.
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