Research Abstract |
軽水溶媒中蛋白質アミドプロトンは、その微環境の違いを敏感に反映して,大なり小なり,溶媒水のプロトンと触媒反応により交換している。^<15>N-同位体ラベルにより帰属した各アミドプロトン磁化の緩和曲線のシミュレーションから交換反応速度k_<lw>を抽出するためには,第一に,アミドプロトン磁化の緩和のダイナミクスを正確に記述できる現象論の確立が必要であり,第二に,その現象論に含まれるパラメータをすべて精度良く決定出来るだけの独立な種類の実験(初期条件と混合期間における磁場勾配の有無との組み合わせ)を準備する必要があり,第三に,各アミドプロトンのスピン間相互作用による自己緩和速度p_lと交差緩和速度σ_<lw>に対する"平均モデルフリー解析"の理論を確立する必要がある。第一の課題について,得られた研究成果の概要を報告する。 (1)アミドプロトン磁化のダイナミクス : アミドプロトン磁化(I)と相互作用する水磁化(W),及びタンパク質の主鎖・側鎖プロトン磁化(S_i ; i=1,2,3,4,5,・・・)を記述するモデルを確立する上で,(a)マクロな水磁化は,結合水とバルク水間のプロトン交換が極めて速いので,独立な実験によってその緩和過程を十分正確に把握できること,(b)同位体^<13>C, ^<15>Nのスピンのアミドプロトン磁化のダイナミクスへの寄与は無視できることが利用できる。アミドプロトンと相互作用しているタンパク質内プロトン磁化(S_i ; i=1,2,3,4,5,・・・)は、およそ2個から10数個まで分布しているが,これらによるアミドプロトンの交差緩和全体をひとつのスピン群磁化(T)によるもので定義することが可能。このTを"1次的スピン群磁化"とすれば,その交差緩和過程を駆動するものとして,IやWの他に "2次的スピン群磁化R"が現れる。タンパク質の場合、プロトンスピン間の相互作用ネットワークは全体的に繋がっているため,このスピン群磁化の階層構造をどのレベルでデカップルすればよいかが問題であった。最も簡単なデカップリング理論(Schemel)は,RによるTの交差緩和を0にするものである。このとき,Rは熱浴の如きものとなる。更に,3次的スピン群磁化と4次的スピン群磁化を考慮する理論(それぞれ,Schemel I とSchemel II)も可能である。種類の初期状態から発展した緩和曲線(ユビキチン)をそれぞれの理論に基づいてシミュレートした結果は,見た目には変わらず実験を見事に再現した。
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