Budget Amount *help |
¥1,900,000 (Direct Cost: ¥1,900,000)
Fiscal Year 2000: ¥900,000 (Direct Cost: ¥900,000)
Fiscal Year 1999: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
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Research Abstract |
研究実績は以下のとおり. この形成期のギリシアの弁論術・修辞学においては,法廷弁論,政治演説,追悼もしくは顕彰演説(演示弁論)の三部門の区別があったが,これらを横断あるいは統合し,言語表現の可能性を広げる試みもなされている.とくに,イソクラテスの『アンティドシス』は,法廷弁論の様式から自伝文学という新しい表現形式を創始したといえる.翻訳作業と並行して,以上のような新しい表現形式がどのようにして可能になったかを探る過程で,あらためて「ミーメーシス」概念をあらためて考察検討する必要に迫られ,以下の結果を得た.一般に,プラトンのミーメーシス論は,『国家』の「形而上学的考察」(595A-602C)において包括的に提示されていると理解されているが,そこでのミーメーシス=影像制作(したがって,排除されるべき虚構)という概念は,プラトンにおいても一定の条件と範囲の中で構成されたものであり,ミーメーシスとは基本的には,「作者と区別される他の語り手を導入し,いかにもその語り手にふさわしい叙述を展開すること」である.この意味でのミーメーシスは,哲学の著作や歴史書も含む広義の文学の基本因子である. 一方,『アンティドシス』はイソクラテスが彼自身に対する訴訟を仮構して,弁明を行なったもので,プラトンの『ソクラテスの弁明』を先行モデルにしていることが明白である.しかし後者が自伝的スケッチを装った,第三者による伝記的スケッチであるのに対し,真正の自伝である.イソクラテスの試みは,自己の著作からの引用,また架空の語り手を登場させて作者を批評させるなど,斬新な手法を効果的に駆使している.ここでの虚構の利用には,一つにはソクラテス文学(ソクラテスの真実を追求するために,虚構を用いたプラトンやクセノポンの著作)の影響がある.もう一つは,弁論の内包する可能性が,新しい表現ジャンルに結実したことを意味する.法廷弁論は,そのほとんどすべてが訴人や被告になりかわって書かれたものであり,また一般に弁論の技術は,政治演説の場合も含めて,自分自身の,また他の人の生を適切に描きだす能力にかかっていたのである.
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