Research Abstract |
1.言語の理解 (1)隠喩文の理解過程に慣習的比喩の一つである方向づけの比喩がどのように関わっているのかを調べた.新奇な隠喩として理解する場合,ソースとターゲットとの間に新しい対応関係を心内に作ることが必要である.この対応関係を作ることができるか否かは,ターゲットの"属性"とソースの"属性"との間にマッチングが成立するかどうかで決まるが,マッチングが成立するかどうかは,最終的に方向づけの比喩に至る尺度概念の連鎖(佐山,1996)を参照できるか否かにかかっている.ただし,実際に隠喩的な理解に必要とされるのは問題となっているマッチングに対応する尺度概念の対だけである.なぜこうした尺度概念の連鎖によって隠喩的な理解が支えられているのかを説明するために,マッチングの意味的な分類が行われ,その分類にもとづいてマッチングと尺度概念の連鎖との関係がさらに詳しく考察された. (2)新奇な隠喩文を使って,隠喩文の理解しやすさと適切さとの間の関係を調べた.中国語およびポーランド語でよく使われる隠喩文を日本語に直訳し新奇な隠喩文を作り適当な文脈をつけ読解時間を測定した. (3)経済や法律,コンピュータ,生命工学などといった分野の文章には,その分野特有の専門用語が数多く登場する.一般の読者にとって,難解な専門用語の含まれる文を理解するのは難しい.文理解の中で,文を構成する専門用語の照応関係の認定を先に行うか,その単語の意味を先に心内辞書から検索するか,それらの処理の時間順序が,それぞれの処理負荷の大きさによってどのように変化するかを,専門用語の難易度と専門用語を含む文の読解時間とを指標とし実験的に調べた.専門用語の難易度が高い場合には,意味説明は専門語句の後に来る方が文章の理解にかかる全体的な処理負荷が少なくてすみ,逆に,難易度が低い場合には前に来る方が処理負荷が少なくてすむことが確認された. 2.顔の認知 (1)人が顔から相手の年齢を推定する際に,その人が相手と同じ年齢層の人と過去に接した経験の多寡によって,年齢の推定の正確さがどのように変わるかを調べた.保母20名,介護福祉士20名が,被験者としてそれぞれ乳幼児,高齢者の年齢を判断した.実験の結果,顔から年齢を読み取る能力が,経験を積み重ねていくことによって向上し,より正確に年齢を読み取ることができるようになることがほぼ確認された. (2)我々は人の顔を区別するのにほとんど苦労しない.どのような人も顔の造作は基本的に同じであるにもかかわらずである.我々は人の顔をどこで区別しているのか.顔認識過程において顔の部分の特徴や全体的な特徴(合わせて相貌特徴)がどのように利用されるかをプライミング実験を行い似顔絵またはトレースが同じか否かの判断時間を測定した. (3)我々は,家族,友達,先輩,後輩,先生,赤の他人,など,日々多くの人と接して生活している.むろん我々はそういった人たちの顔だちも性格も一人一人異なることを知っている.性格を判断するために我々が顔からどのような情報を受け取っているのか分からないが,我々は性格や印象を実際に顔から受け取っており,その認知的な作業を行うのに,さほど大きな困難さを感じない.ただ,我々は顔から受け取った情報によって,相手の性格や人格を誤解することもある.どのようにして我々は顔から相手の性格を読み取っているのかを質問紙法を使った実験を行い,因子分析によって調べた.
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