Research Project
Grant-in-Aid for Encouragement of Young Scientists (A)
若手研究者養成のあり方について分析・考察および政策的検討を行うことを目的とする本研究の成果として、ここでは、(1)ポスドク本人の「主体性」の重要性、(2)ポスドクの移動状況、(3)ポスドクからみた研究者養成制度、の3点について報告する。特別研究員採用期間中の研究活動について、人文社会は「自由な発想の元に主体的に設定した課題」が77%に達する一方で、理工系の分野では多くが「指導教員等との相談の上で設定した関心のある課題」となっており、化学分野ではさらに主体性が低下し「所属研究グループのなかで与えられたテーマ」の比率が10%に達している。主体性を特徴とする人文社会では、優れた研究成果に結びつくケースと希薄な指導が結果として失敗をもたらすケースに分極化している。理工系の場合、例えば化学ではテーマが主体的であり指導が綿密に行われるほど研究成果が向上するという明確な関連が観察された。生物分野では、研究テーマの主体性が高いほど研究費の不足度は高まり、優れた研究者との知的交流という点での満足度も低下する。このような研究分野の特性(多様性)は、ポスドク制度の在り方を考えていくうえで決定的に重要な意味を持つ。これまでも日本学術振興会により特別研究員終了者の就職状況調査が行われてきた。今回の調査分析では新たに、特に国内の大学等における非常勤の研究職において、非常に高い頻度で短期間のうちに移動が起こっている事実が明らかになった。上昇移動とはいえないこれらの移動は、研究活動をサポートするための制度と現場のニーズとの間の歪みを反映したものと考えられる。特別研究員制度をはじめとする現在のポスドク制度に対しては、高い期待が寄せられている一方で、制度の不備や問題点を指摘する声も多い。学術分野における世代間の利害対立が表面化しつつある中で、ポスドク制度の在り方に強い影響力をもつ政府審議会等にこれらの声を反映させる仕組みについても考えていく必要があるのではないか。