Research Project
Grant-in-Aid for Encouragement of Young Scientists (A)
どのようにして法人に刑事責任を負わせるのが妥当であるのかという課題に取り組む本研究における実績の概要は、以下の通りである。本年度は、前年度に得られた知見を深めることのほかに、主として、(1)比較法的検討を行った。法人固有の刑事責任を理論的に解明する試みは各国法制において続けられているが、その点についての共通認識は未だ十分に得られてはいない。次に、(2)法人の刑事責任の範囲を広げ、刑事責任を強化すれば足りるわけではないことから、どのような領域におけるどのような法益侵害行為に対してどのような制裁が有効であるかについての政策論的検討を試みた。その結果、前年度に行った研究とも合わせてみると、法人の行う業務に関してなされる、主として超個人的法益を侵害する行為について、法人に刑事責任を肯定することは、一般に受け入れられやすい傾向にあると言えようが、その一方で刑事責任の本質、また、刑事責任と行政・民事責任との限界づけは必ずしも明らかにされていないままである。我が国の両罰規定によって法人に科される罰金刑の切り離しが実現されて以来、法人には多額の罰金が科され、その効果を増してはいるが、なお、法人の業務自体の停止等を内容とする行政処分の方が効果的に作用する場合も少なくない。そもそも刑罰の本質を自然人についてと同様に理解することができるかには疑問も認められ、むしろ、法人の活動に即した新たな刑罰が構想される必要があり、従来の行政処分、あるいは損害賠償をも視野に入れた上で、刑罰の内容を確定し、それに従って刑事責任の基礎づけを行うことが求められているように思われる。それは自ら手続面においても影響を与え得るものであろう。このような点を基本的視座にすえて、今後も継続的に各論的検討を試みる予定である。