Research Abstract |
本年度研究計画では,ポット植樹木および立木の茎流量,蒸発散量,水ポテンシャルの測定から,下向き茎流通水経路の解析を行う予定であった。しかし研究代表者の異動により,予定していた電子台秤および超音波風速計による蒸発散量測定が不可能になった。このため,現在は立木における茎流量,葉の水ポテンシャル,土壌水分ポテンシャルの測定のみを継続している。また,過年度に測定をおこなった樹木および作物における双方向茎内流の測定結果の解析をおこなったので,これを報告する。 樹木として樹高10mのアオダモ,作物としてトウモロコシ各1個体の茎内流を茎熱収支法によって測定した。同時に雨量を測定した。測定データに,昨年度に開発した非対称補正およびゼロ近傍補正を施した。アオダモでは降雨開始3〜6時間後に下向き茎流が発生した。降雨時の下向き茎流量の平均値は-0.36gs^<-1>(日中が-0.44gs^<-1>,夜間が-0.29gs^<-1>)で,最大蒸散流量の30%であった。トウモロコシでは下向き茎流量測定値の中に,茎と葉の間隙を流下する量が含まれたため,降雨強度と茎流量の回帰分析によって葉からの雨水吸収量を求めた。雨水吸収によるトウモロコシの下向き茎流量の平均値は,-9×10^<-3>gs^<-1>(最大蒸散流量の50%)と推定された。 アオダモ樹の結果から下向き水移動のメカニズムを考察すると,植物体内の水分貯留器官(リザーバ)の機能によって説明できる。降雨開始前,リザーバの水ポテンシャルは土壌の水ポテンシャルよりも低い負圧であり,蒸散をおこなっている場合にはさらに低い状態にある。降雨が開始すると,気孔内への水の侵入によって葉の水ポテンシャルは正となり,葉と末梢近くのリザーバの間に重力ポテンシャルよりも大きな局所的ポテンシャル勾配が生じる。このポテンシャル勾配によって,最大蒸散の30%もの大きな雨水吸収が生じると考えられる。
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