Research Abstract |
Wistar系雄性ラットにL-arginine monohydrochloride(Arg)4.5g/kg体重を単回腹腔内投与し、急性膵炎を作成した.このモデルは3日目までが急性膵炎進展期であり,急激に膵重量が減少し,組織学的にはduct-like tubular complexを呈するようになる.この際、0.5〜1日目に急激に膵腺房細胞アポトーシスが増加することが捉えられた。0,0.25,0.5,1,3,5,7,9,11,14日目に屠殺し、膵を摘出して組織学的・生化学的検索に供した。急性膵炎の進展期(0.5日後)に膵腺房細胞のBrdU標識率は上昇をみなかった(0.27±0.17%)にもかかわらず,PCNA陽性率は急激に上昇し(15.3±1.85%),膵のWstern blottingでは71kDの部位に強いPCNA発現を認めた.急性膵炎進展期における腺房細胞のPCNA(36kD)は、polymericであるかcyclin D1(35kD)などのG1サイクリンとの複合体として増加していることが想定された.Immunogold silver staining(IGSS)を用いた免疫組織化学では通常のHE染色で対染可能であるが、Cyclin D1は0.5日後にアポトーシス細胞に染色された。Western blottingにて膵1μgあたりのCyclin D1含有量を解析した結果、0.0221ng(0日),0.0254ng(0.25日),0,0257ng(0.5日),0.0575ng(1日)と膵炎発症1日後に増加した。引き続き急性膵炎進展期におけるcyclin D1mRNAの発現を確認した.AGPC法によりTotal RNAを抽出し,RT-PCR法によりcyclin D1mRNAの発現を内部標準G3PDH mRNAとの比(RGU:Relative Gene Unit)によって確認した.急性膵炎進展期のマーカーとしてPAP(pancreatitis associated protein)mRNAを併せて検出した.急性膵炎の進展に平行して,PAPmRNAは0.3846RGU(0日),0.9103RGU(0.25日),1.3636RGU(0.5日)と上昇した.この際,cyclin D1mRNAは0.029RGU(0日),0.1837RGU(0.25日),0.9506RGU(0.5日)と基礎値の32.8倍に著増した.本研究ではG1サイクリンとして、PCNAやCyclin D1以外にCyclin D2,Cyclin D3の解析を試みた。IGSSでは膵腺房細胞のCyclin D2,Cyclin D3の染色性に経時的な変動はみられず、mRNAレベルでもCyclin D2mRNA:1.342RGU(0日),1.775RGU(0.25日),1.691RGU(0.5日),Cyclin D3mRNA:0.843RGU(0日),0,822RGU(0.25日),0.686RGU(0.5日)と変動は捉えられなかったが、膵1μgあたりの蛋白含有量は、Cyclin D2で0.0126ng(0日),0.0248ng(0.25日),0.0038ng(0.5日),0.0723ng(1日)、Cyclin D3で0.0844ng(0日),0.0879ng(0.25日),0.0378ng(0.5日),0.2142ng(1日)とCyclin D1同様の1日後に増加する結果となった。急性膵炎進展期早期にG1サイクリンであるPCNAやcyclin D1の発現が増加することが確認され,進展期中期には蛋白レベルでCyclin D2,Cyclin D3も増加することが判明した。これらの知見より、急性膵炎進展期における腺房細胞の一部がG0期から一旦G1期に入り死滅する傍証が得られた.
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