Research Abstract |
本研究では、感情障害の原因とも考えられているセロトニントランスポーター(SET)、そしてそのmRNAの転写調節機構に注目した。我々は従来報告がある二つのエクソン1の約3kbp下流に新たなエクソンを発見し、マウスSETには異なったエクソン1を持つ3種類のmRNAが存在することを確認した。これらのエクソン1は全て非翻訳領域であるため、これらのmRNAより翻訳される蛋白は同一であるが、そのプロモーター領域は異なっている。これらのSETエクソン1を上流からエクソン1a,1b,1cと呼び、夫々のエクソン1に対応するプロモーター領域をP-1a,P-1b,P-1cと名付けた。これら夫々のプロモーター領域を単離し、pGL-3 enhancer vectorに組み込み、COS-7細胞及び、PC-12細胞にトランスフェクションし、レポーターアッセイを行った。 COS-7細胞に於いては、全てのプロモーター領域の基礎活性はmock vectorより高かったが、P-1cの基礎活性は他の二つのプロモーター領域の活性よりも有意に低かった。dibutyryl cyclic AMP(Dib-cAMP)の投与によって、P-1cの活性は低下し、他のプロモーター領域の活性は変化しなかった。鬱病を惹起することで知られる。インターフェロンα(INF-α)の投与によって、P-1aの活性は低下し、P-1cの活性は上昇した。 PC-12細胞に於いては、P-1a,P-1bのプロモーター活性はmock vectorより高かったが、P-1cの活性はmock vectorと変わらなかった。Dib-cAMPの投与にによって何れのプロモーター領域でも活性が上昇したが、INF-αでは変化しなかった。 COS-7での結果は、P-1cの活性がインターフェロンで上昇する可能性を、PC-12での結果は神経系ではP-1cの活性が普段は沈黙しており、何らかの刺激で活性化する可能性を示唆しており興味深い。しかしながら、動物種が違う細胞株や、元来SETを発現していない細胞の結果から推論していくことには限界がある。今回我々はマウス背側縫線核由来の不死化細胞であるRN46Aを入手した。この細胞においてこれらのプロモーター領域の活性及び、種々の刺激での変化を測定し、その結果に基づいてSETの機能異常とりわけ転写調節異常と病態の関連及び、それに対する薬剤開発の道を拓く研究を行うことを計画している。
|