Research Abstract |
本研究は,虚血/再灌流障害におよぼす活性酸素ラジカル,特に一酸化窒素(NO^・)の影響,その結果生じる筋細胞内Ca^<2+>異常蓄積によって誘発されるCa^<2+>の細胞毒性を機能的に精査しようとするものである。したがって,Ca^<2+>を中心とした筋細胞膜系の機能-分子病態と活性酸素ラジカルの関与について分子薬理学的に解明することを目的とする。 最終年度である本年度は,前年度に得られた結果;NO^・による筋原線維収縮抑制機構,をより詳細に解明するため,筋の収縮/弛緩を担うクロスブリッジ動態に,虚血状態で発生されるであろうNO^・がどのように関与しているかをSinusoidal Analysisを用いてさらに検討を加えた。 NO^・ドナーであるNOC-7(5〜1000μM)から放出されるNO^・が実験溶液中で反応時間依存性に増加することをESR法により確認した。そして,当該分野で多用されている脱膜処理したウサギ心室筋原線維の標本長を測定し,pCa4.0溶液に溶解したNOC-7を30分間適用した。その後,標本をpCa9.0と4.0の溶液中で,標本長の1%を12.5〜0.125Hzの頻度で振幅させ,クロスブリッジ動態の指標であるstiffnessを測定した。 弛緩時クロスブリッジ動態を示すresting stiffnessはNO^・により影響を受けなかった。これに対し,収縮時クロスブリッジ動態を示すCa^<2+>-activated stiffnessは,NOC-7:5,50μM(NO^・として0.69,5.6μM)では減少し,500,1000μM(NO^・として36,119μM)ではほとんど影響を受けなかった。また,クロスブリッジサイクルと筋原線維ATPase活性の指標であるfrequency at minimum stiffnessはNOC-7の濃度依存性に低下し,この低下は,NOC-7:500μMから有意であった。一方筋原線維結合クレアチンキナーゼ活性は,NOC-7の濃度依存性に低下し,この低下は,NOC-7:5μMから有意であった。これらの結果から,数μMまでの比較的低濃度のNO^・によるクレアチンキナーゼ活性の抑制はATP緩衝能の維持できる程度で,クロスブリッジ数を減少させるが,ミオシンATPase活性の抑制は非常に弱いものであることが考えられる。しかし,μM以上の比較的高濃度のNO^・は,クロスブリッジ数に影響を与えないものの,クレアチンキナーゼ活性抑制にリンクしたミオシンATPase活性の強い低下が示唆される。したがって,μM以上のNO^・適用後得られたstiffnessはATP供給の不足したアクチンとミオシンの滑走が困難な,rigor状態のクロスブリッジが正常なものよりも増加していることが考えられる。このことは,見かけ上同じ張力を発生している筋線維でもNO^・によるクレアチンキナーゼ活性抑制の程度により収縮機構が異なること,あるいは,正常な収縮とrigor収縮とはその割合を変え混在し得ることが推測されうる。以上の結果から,NO^・による一連の心筋収縮機能障害メカニズムにクレアチン・シャトルに代表されるATP供給系の破綻が関与していることが証明できた。現在,摘出心臓による虚血再灌流モデルを用い,上記指標を種々の条件で測定している。そして,最終目的である咀嚼筋におけるNO^・-Ca^<2+>連関の解明を達成するため,咬筋を用いた病態モデル作製にも着手している。
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