Research Project
Grant-in-Aid for Encouragement of Young Scientists (A)
大腸菌のEmrEは分子量約12KDa、110アミノ酸からなる小さな膜タンパク質で、構造上関連のない様々な脂溶性カチオンを細胞外へ排出する。膜貫通部位が4カ所であることや、機能を持たない変異EmrEとの共発現の実験から3量体で機能すると予想されている。しかし、多様な薬物を単一の膜輸送担体で能動的に輸送するその分子機構は不可解であり、一つのパラドクスにすら思える。この難解な分子機構解明には分子構造の把握が不可欠と考え、平成12年度は、Cysを導入した組換え体EmrEの解析から、その分子構造や機能に伴った構造変化を捉える研究を行った。(1)EmrEのトポロジー解析 SchuldinerらはCys-scanning変異体をSH試薬で標識することでEmrEの膜貫通領域のおおよその解析を行い、N末とC末を細胞内に突出する4回膜貫通構造をとると提唱した。しかし我々は、膜不透過性SH試薬と膜透過性SH試薬を用いる方法により、これまで細胞内に位置すると考えられてきたループ2-3中のPro55とThr56が細胞外に位置する事を明らかにした。(2)化学修飾を利用した分子機構解析 EmrEのThr56位は膜不透過性SH試薬により標識されるが、同時に薬物排出活性が低下する。これを指標に、薬物輸送の過程でThr56位の状態がどう変化するかを調べた。その結果、輸送基質存在下では膜不透過性SH試薬DTNBによる化学修飾の標識効率が上昇することを見いだした。この結果から、(1)56位は薬物輸送過程で化学修飾剤が修飾し易い様に構造を変化させること、(2)56位の化学修飾による機能低下はethidium bromideなどの輸送基質と化学修飾剤が直接相互作用し動きを妨げているのではないこと、従って、プロトンの流入もしくは薬物排出と共役した構造変化に重要な箇所であること、が明らかとなった。