Research Abstract |
プロスタグランジン(PG)D_2は強力な睡眠誘発作用をもつ内因性物質である。ラットにおいてPGD_2は吻側前脳基底部の脳膜組織に作用して睡眠を誘発するが,この睡眠量の増加はアデノシンA_<2A>受容体拮抗薬の前処置で抑制される。本研究では,PGD_2による睡眠誘発の作用機構を明らかにするため,ラット吻側前脳基底部くも膜下腔の細胞外アデノシン量をマイクロダイアリシス法を用いて測定し,PGD_2とアデノシンとの機能的関連を明らかにする。前年度はウレタン麻酔条件でくも膜下腔にPGD_2およびPGD_2受容体(DP受容体)作動薬を投与し,アデノシン量が用量依存性に基礎遊離の2.2倍にまで増加することなどを報告した。本年度は,このアデノシン増加の作用機構を明らかにするために以下の薬理学的検討を行った。アデノシンの生合成に必須の酵素,5'-ヌクレオチダーゼの阻害剤であるα,β-メチレンADP(10,100μM)の局所投与により,くも膜下腔のアデノシン量は投与前の50%以下に速やかに減少した。しかしPGD_2はα,β-メチレンADP存在下でアデノシン量を対照群と同様に増加させた。一方,アデノシン分解経路に関わるes-ヌクレオチドトランスポーターの阻害剤,NBTI(10μM)とジピリダモール(10μM)の共投与はアデノシン量を40%増加させたが,この条件下でPGD_2は相加的にアデノシン量を増加した。さらにRT-PCR法によりラットくも膜組織におけるヌクレオチドトランスポーター類のmRNA発現を検討した結果,この組織にはes-およびCNT2-の異なるトランスポーターが発現することが分かった。従って,PGD_2はくも膜組織のDP受容体を介してCNT2-トランスポーター活性を阻害し,アデノシン取り込みを抑制することで脳脊髄液中のアデノシン量を増加すると考えられる。このアデノシンの増加により前脳基底部の神経回路が影響を受け,睡眠調節に関わる神経群の活動が亢進することが強く示唆される。
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