Research Abstract |
酸素貯蔵タンパク質ミオグロビン(Mb)のヘム活性部位の電子構造(特にヘム鉄の電子密度(ρ_<Fe>))と機能の関係を明らかにする研究を行った.私どもの以前の研究からρ_<Fe>が減少するとMbの酸素親和性が低下することが明らかとなった.そこで,このρ_<Fe>と酸素親和性の関係がどのような要因で決定されているかを明らかにするため,ヘム近傍のアミノ酸の役割も含めて解析を行った.酸素はMbのヘム鉄と配位結合し,さらに,ヘム近傍に存在するヒスチジン(His64)と水素結合することで,その結合状態を安定化している.そこで,ρ_<Fe>によるMbの機能の制御における,His64と結合酸素の水素結合の役割を明らかにするため,His64を水素結合できないロイシンに置換した変異体(H64L)を作成し解析を行った.ρ_<Fe>を大きくかつ系統的に変化させるため,ヘム側鎖に電子求引性の高いCF_3基を導入する数が違うヘムを合成し,天然MbとH64Lに組み詳細な解析を行った.機能解析した結果,H64Lは水素結合を形成しないので,酸素親和性は約100分の1に低下した.しかし,H64Lでもρ_<Fe>の減少で天然のMbと同程度,酸素親和性が低下した.このことから,ρ_<Fe>は水素結合の有無にかかわらず,Mbの機能に同程度影響をあたえることが分かった.また,共鳴ラマンによる配位結合強度の解析により,ρ_<Fe>の減少で配位結合が弱くなることがわかった.つまり,ρ_<Fe>によるMbの機能制御は,水素結合の強度を変化させるのではなく,主に配位結合強度に変化に起因することが明らかになった.最後に,Mbが酸素貯蔵するためには,ヘム鉄の自動酸化を防ぐ必要がある.そこで,天然のMbのρ_<Fe>と自動酸化速度の関係を解析した.その結果,ρ_<Fe>を減少させると,自動酸化が抑制されることが明らかになった.また,H64Lも自動酸化の解析を行った結果,水素結合が無いことで自動酸化速度は増大したが,ρ_<Fe>を減少させることである程度,自動酸化を抑制できることが明らかになった.アミノ酸置換では酸素親和性が高いと自動酸化速度が遅いという傾向があり,ρ_<Fe>による機能の制御では,酸素親和性が低いと自動酸化速度が遅い傾向がある.従って,アミノ酸置換とρ_<Fe>の変化を組み合わせれば,酸素親和性と自動酸化を独立して制御できると考えられる.この知見は人工血液の創成に応用できると考えられる.
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