Budget Amount *help |
¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,300,000)
Fiscal Year 2012: ¥600,000 (Direct Cost: ¥600,000)
Fiscal Year 2011: ¥700,000 (Direct Cost: ¥700,000)
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Research Abstract |
電子の有するスピン角運動量の自由度を積極的に利用することにより,新奇なデバイスの創出を目指す「スピントロニクス」と呼ばれる研究分野が急速な進展を見せている.このスピントロニクス分野において,スピン流の生成・制御・検出技術の確立と精密化は重要な課題であり,その基礎研究が盛んに進められている.我々はこれまでに,電流-スピン流変換現象である正スピンホール効果を用いた緩和変調法による注入スピン流定量手法や,その逆効果である逆スピンホール効果によるスピン流の電気的検出(定量)手法を構築してきた. 正スピンホール効果を用いた緩和変調法では,これまでスピン流が電流に与える影響が考慮されていなかった.スピンホール効果を強く示す物質に対して電流を印加すると,試料端にスピン蓄積が生じるため,このような物質を用いたナノスケールの複合膜構造においては,これまで考慮されてこなかったスピン流-電流変換現象が顕著に表れることが予想される.電流に対するこのようなスピン流の影響は電気伝導率に反映されるはずであり,この効果はナノスケールの複合膜構造における磁気抵抗効果を測定することにより観測可能であると考えた. 特別研究員最終年度にあたる平成24年度は,昨年度に引き続き,スピン流を介して発現する新しい磁気抵抗効果「スピンホール磁気抵抗効果」について集中的に調べた.本年度は,Pt/磁性絶縁体複合膜界面を用いて既に得られている実験結果を基に,共同研究者らと議論を行い,論文執筆を進めた.また,追加実験として,この磁気抵抗効果のPt層膜厚依存性測定を行った.その結果,実験結果はスピンホール磁気抵抗効果の枠組みを用いて定量的に説明可能であることが明らかとなった. 本研究により,スピンホール磁気抵抗効果という,磁性体に電流を流すことなく磁性体の磁化情報を電気的に読み取ることを可能とする新しい磁気抵抗効果の存在が初めて示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請書において計画していたPt1磁性体複合膜におけるスピンホール効果を介した磁気抵抗効果について,信頼できる実験結果を得ることに成功した。この研究成果はPhysical Review Letters誌に受理された.更に,この磁気抵抗効果について更に系統的な研究を進めた成果として,理論(Physical ReviewB誌に受理された)および網羅的な実験(Physical ReviewB誌に受理された)の両面において新たな進展があった.今後,スピン流物性研究において重要になると思われるこの磁気抵抗効果を世界に先駆けて発見した意義は大きい.以上の成果から,当初の計画以上に研究が進展しているものと考える.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では,スピン軌道相互作用が強く,大きなスピンホール効果を示すことが知られているPtを金属層として用いることにより,スピンホール磁気抵抗効果という新しい磁気抵抗効果を発見するに至った.今後,スピン軌道相互作用の強さの異なる他の物質群を用いた磁気抵抗効果およびスピンポンピングの系統的な測定を行い,スピン拡散長,スピンホール角およびスピンミキシングコンダクタンスの物質依存性を明らかにしていくことが重要である.また,スピンホール磁気抵抗効果の枠組みから導出された,磁性絶縁体1金属1磁性絶縁体三層複合構造における磁気抵抗効果の膜厚依存性などについても今後,検証していくことが必要である.
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