Research Abstract |
タンパク質分子モーターは、'揺ぐ世界'において入出力とそのタイミングの制御によって変換効率など望ましい機能を発揮している。今年度はこの制御の問題を正面からとりあげ、ナノバイオロジーの実験的知見とタンパク質構造解析の知見を統合することを目指した。 1.揺ぎのエネルギー論の枠組みを用いて、カルノー熱機関おける操作にともなう仕事とその不可逆性、および両者の関係について検討し(ref.1)、わけても、環境との接触に際して不可避に失われる情報と不可逆仕事の関係については熱力学の拡張への挑戦的な問題を含むので一般論の形式で論じた(注1). 2.揺ぐ開放系の個別過程を扱う枠組みを揺ぎのエネルギー論の拡張として構成した(ref.2)。これはATP,ADP、あるいはGTP,GDP etc.、およびPiの混合物である環境での議論に必要である。化学ポテンシャルの意味、それと反応座標やエネルギー収支との関係なども示した。 3.実験の仮説検証的な解析により(ref.3)、分子モーターが化学反応→力学仕事の向きのみならず、力学仕事→化学反応の向きの双方向の制御を具現していることを示唆した。従来の(思考)実験モデルでは大雑把にいって片側の制御のみしか行わない事を指摘した(ref.4)。 4.分子モーターにおいて要素過程が互いに時空的に制御されながら進行していることが強く示唆されるが、 (1)リガンド結合を検知するシステムの構造的・エネルギー論的な設計 (2)検知のシステムと(タイミングを含めた)制御のシステムを双方向に結合して、自由エネルギー変換機構を構築した(注2;論文執筆中)。副産物として、Allosteric転移や結合の交換などをミクロレベルで統一的に記述できるようになった。 注1:Irreversibility resulting from contact with a heat bath caused by the finiteness of the system,K.Sato,K.Sekimoto,T.Hondou,F.Takagi,submitted to Phys.Rev.E 注2:Control and Sensing in Thermally Fluctuating Systems:Ken Sekimoto,(Talk presented at Dynamical Aspects of Complex Systems from Cells to Brain(DACS2000),29Nov.-1Dec.2000,Sendai,Japan)
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