私たちは最近、ゼノパス卵の受精シグナル伝達の生化学的・細胞生物学的解析を行っている。本研究では従来の研究を背景に、発生初期過程を蛋白質レベルで包括的に研究する手法の開発を目的としている。受精の細胞内シグナル伝達は新規の遺伝子発現を伴わず、卵由来の蛋白質やmRNAを中心にまかなわれるため、蛋白質分子の機能を全体的に解析する手法を確立することは重要である。今年度は、以下の2項目について検討を行った。 1.受精シグナル伝達経路の再構成 受精直後の生化学的・細胞学的変化(卵活性化)を指標に、ゼノパス卵の受精成立におけるSrc型チロシンキナーゼ(SFK)の機能を検討した。その結果、SFKはホスホリパーゼCgの活性化に働く卵活性化の必要因子であることや、過酸化水素がSFK活性依存的に卵活性化を起こすことを見いだした。卵蛋白質の強いチロシンリン酸化をおこす過酸化水素の実験系は、次項のサブトラクション免疫抗体作成に抗原を提供するモデル系として利用した。 2.サブトラクション免疫による抗体作成 受精卵特異的な発現やチロシンリン酸化を受ける蛋白質を網羅的に同定するためのモノクローナル抗体群の作成を行った。未受精卵の抽出液を免疫したマウスを免疫抑制処理し、さらに受精卵ないし過酸化水素処理卵の抽出液で追免疫した。免疫抑制はシクロホスファミドで行い、その有効性はELISA法により確認した。現在追免疫が終了し、脾臓の摘出/ハイブリドーマの樹立を行っている。追免疫による抗体価の上昇も既に確認しており、年度終わりにはクローンの選択を行う見通しである。 分子基盤的な部分については一定の成果が得られ、学術論文による成果公表も行えた。抗体作成については、免疫開始が前年9月とおそく、免疫抑制作業/成否確認を必要とするなど時間のかかるスケジュールとなり、本報告が不完全である点は反省している。次年度は抗体作成を継続しながら、卵の精子受容部位(受精の場)に存在する分子群に焦点を絞った生化学的解析と特異抗体の作成に着手する。
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