ショウジョウバエのホメオボックス遺伝子dveは、腸管の吸収機能特性を制御している。銅イオンをキレートしたポルフィリン系化合物を選択的に吸収する性質からcopper cellと命名されている腸管細胞があり、この細胞が吸収機能を獲得するためには、dve遺伝子の一過性発現が必要である。つまり、dve遺伝子の発現が抑制されるべき時期に強制的にdve遺伝子を発現させると、形態的な異常を伴うことなく、吸収特性のみが阻害される。このように、吸収機能特性のみが選択的に阻害された個体群を安定的に得るための条件について検討を行った。 500系統のGAL4エンハンサートラップ系統をスクリーニングし、copper cellを含む中腸細胞で発現のある系統を29系統同定した。GAL4依存的にGreen Fluorescent Protein(GFP)とdveを同時に発現できる系統を用い、dve遺伝子を持続的に発現するdve発現幼虫、およびGFPのみを発現できるコントロール幼虫について、吸収機能(copper fluorescence;UV光の照射によりオレンジ色の蛍光を発する)を測定した。6系統において吸収阻害効果が認められ、形態的特徴を保持できる条件について詳細に検討した結果、2系統について至適条件を決定できた。 同定した2系統のうち、1系統は吸収は完全に阻害されるが低頻度で形態異常が誘導されてしまう系統、もう1系統は形態は正常だが低頻度で弱い吸収が認められてしまう系統である。これら2系統で誘導したdve発現幼虫とコントロール幼虫を比較し、2系統に共通して発現が変化している遺伝子は、吸収機能制御に関わる遺伝子として、解析の候補となり得るであろう。
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