妊娠中毒症は、高血圧のひとつの病態モデルと考えられ、ヒトにおける血圧調節機構を解明するのに適した病態である。本症においては、妊娠が終了すると速やかに高血圧が軽快することから、発症時と軽快時を同一個人で比較することが可能である。そこで本研究においては、プロテオーム解析の手法を用いて本症に関連する異常蛋白を特定することを目的とした。 正常妊婦、妊娠中毒症妊婦、妊娠中毒症褥婦(妊娠中毒症軽快後)からインフォームド・コンセントを得て採血し、その血清を検体とした。これらの検体について二次元電気泳動法により全蛋白質の解析を行った。サンプル調整液に血清10μlを添加し、蛋白を変性した後、Immobiline DryStrip、IPGphorを使用し、12時間DryStripを膨潤した後、500V1時間、1000V1時間、8000V6時間泳動した。一次元目の泳動が終了したゲルをDTTとヨードアセトアミドにて平衡化した後、二次元目として8-16%SDSポリアクリルアミド・グラディエントゲルを用いて、30mAで6時間泳動した。銀染色にて蛋白質の検出を行い、デンシトメトリーGS710にて、コンピュータへの取り込みを行った。 以上の解析の結果、数百個のスポットを確認することができた。このうち、妊娠中毒症発症時と正常妊婦、妊娠中毒症発症時と妊娠中毒症の軽快後を比較して、ともに明らかに量的変化のあるスポット(pI8〜9、分子量約10kDのスポットをはじめ、計4つ)の検出に成功した。現在、検出したスポットをゲル内酵素消化を利用したPMF法による蛋白質の同定を行っている。今後、解析方法の改良とともに症例数を増やしていき、妊娠中毒症時に変化のあるスポットをさらに検出して異常蛋白の同定を行っていく予定である。 以上のように、概ね当初の計画どおりに進行することができ、新しい知見を得ることができた。
|