Research Abstract |
疾患の多要因・大規模かつ不完全な多型・発現プロファイルから柔軟に推論する手法を確立し,それを実際に収集した疾患データに適用して疾患機序経路および個人の薬剤応答性を解明するのが本研究の目的である.まず,遺伝的要因に環境要因を加えた多要因の現象を一度に扱う最尤法アルゴリズムの理論的枠組を構築した.また複数のlocus(SNP)の相加・相乗効果を扱うモデルと最尤法アルゴリズムの理論的枠組を構築した.またマイクロアレイの不完全で連続データの扱いを確立し,さらに2群間で発現の差のある遺伝子を網羅的に抽出する枠組とアルゴリズムを新規に提案した.時系列発現プロファイルから遺伝子ネットワークを推定する研究では,微分方程式は解が不定となる問題が発生することを示した.以上の理論的枠組を実際の大規模多型タイピングデータおよびマイクロアレイからの大規模発現プロファイルに適用し,癌,慢性関節リウマチなどの分野で,新たな医学・生物学的知見を得るに至った.まず,卵巣癌での漿液性/粘液性の違いと相関の大きい遺伝子を抽出し,卵巣癌の治療への一助とした.肝癌では,病理像では診断しにくい原因ウイルスの判定に寄与する遺伝子や,進行度・分化度に関わる遺伝子などの抽出を行ない,その機能を解析した.慢性関節リウマチでは,大規模多型タイピングの結果,免疫・炎症に直接関わるIL-3遺伝子のプロモータ内のSNPが慢性関節リウマチに大きく関わることが見い出され,さらに他の遺伝子との組み合わせによって有意さがさらに高まること,つまりゲノム上では離れた複数の遺伝子の産物が同時に疾患で寄与することが発見された.多型のタイピング結果や発現プロファイルなど,大規模なデータが産生される場では,自動的なバックアップ装置が必要である.このことから,現在のディスク容量と日常発生するデータ量に見合ったDLTテープライブラリを科研費補助金にて購入した.
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