Research Abstract |
<背景と目的>本研究では、suppressive subtraction法により、病変特異的に発現する遺伝子群を同定し、原因不明の消化器疾患の分子病態の解明を目指す。mRNAを特異的に増幅するSMART-PCRにより極少量の臨床検体より解析に必要な量のcDNAを増幅、suppressive subtractionにより病変部と正常部の遺伝子発現の差異を迅速・高効率に検出する。 <検討結果>まず、生検材料から得られる微量のtotal RNAよりmRNAを特異的にlong distance PCRにより増幅するSMART PCR法を導入し、lugのtotal RNAから数+microgramのmRNA由来のcDNAを得ることが可能となった。さらに、suppressive subtraction法による高効率のsubtraction cloningを行い、疾患特異的発現をする遺伝子のPCR産物を得ることができた。 <考察>SMART-PCRにより得られたcDNAは臓器特異的なband patternを示した。このcDNAに、controlとしてファージ由来のDNAを2000から4000分に1加え、同じcDNAをdriverとしてsubtractionを行うと、この加えたファージDNAのみを特異的に増幅することが可能であり、本法が数千分の1程度のわずかな遺伝子発現の相違を検出しうると考えられた。肝癌cDNAから周囲非癌部cDNAをsubtractionすることにより、FAK,GS,DCC,Gia,PGCなどの遺伝子が肝癌で特異的に発現していることを見いだした。また大腸癌から周辺正常大腸粘膜のsubtractionでは、同様にCEA,NCA,Bubl,Maspin,TOG,GABA-Rなどの遺伝子の発現を確認した。さらに、潰瘍性大腸炎ではSAA、慢性C型肝炎および自己免疫性肝炎ではIP10、原発性胆汁性肝硬変では種々のミトコンドリア遺伝子が発現していることを見いだした。以上より、本方法により消化器疾患に関連する遺伝子発現を臨床材料から同定することが可能であり、種々の病態の解明に有用であると考えられた。
|