レニン・アンジオテンシン系(RAS)を阻害する薬物は心不全や心筋梗塞、腎不全の治療に極めて有効であることが近年の大規模臨床試験により明かとなってきた。従ってRASの最終産物であるアンジオテンシンIIが心血管系や腎臓においてどのような遺伝子発現を制御するかを明らかにすることは、循環器疾患や腎疾患の発生や進展の機序を理解するために極めて重要な課題と考えられる。本研究の目的はアンジオテンシンIIが発現制御に関与する遺伝子を包括的に検討することである。 実験動物にアンジオテンシンIIの直接投与を行うと、投与方法、投与期間、投与濃度などにより、いろいろな違いが生じる可能性がある。そこで、心血管系に主に存在するアンジオテンシンII受容体であるタイプ1受容体のノックアウトマウスにおける遺伝子発現を正常対照と比較した。クロンテック社のアトラスを用いて、約2300個の遺伝子発現について解析した(n=1〜2)。クロンテック社のメンブレンアレイを用いてノックアウトマウスと正常マウスとの間で2倍以上発現が変化している遺伝子を同定した。その結果タイプ1受容体のノックアウトマウスの心臓において発現が亢進している遺伝子47個、低下している遺伝子104個を同定した。タイプ1受容体のノックアウトマウスの腎臓において発現が亢進している遺伝子20個と、低下している遺伝子125個を同定した。 アンジオテンシンIIによって生じる心血管病変の形成にこれらの遺伝子発現が関与していると考えられた。タイプ1受容体のノックアウトマウスでは血圧が正常対照に比し、30〜40mmHg低下している。したがって同定した遺伝子発現の変化は血圧低下に依存している可能性は否定できない。現在正常マウスにヒドララジンを投与し血圧をタイプ1受容体のノックアウトマウスと同等に低下させた場合に心臓や、腎臓の遺伝子発現がどのように変化するか検討中である。
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