Cyanidioschyzon merolaeは単細胞性の紅藻であり、培養が容易であることや、核ゲノムが小型である(約14-Mbp)ことなどから、紅藻類の研究に理想的なモデル系であると考えられる。紅藻の葉緑体は、そのゲノムに4種の転写因子をコードするなど、葉緑体の起源となった細菌に類似した性質をもち、自立性を保つ原始的な葉緑体であると考えられる。このような転写因子や転写制御は、高等植物に至る進化の過程で失われてしまった可能性が高い。本研究は、C.merolae葉緑体ゲノムの転写調節を解明し、葉緑体の機能と進化について理解することを目的とした。本年度の研究では、C.merolaeの葉緑体ゲノム配列を元に、推定される214個のORF、および核コードの2種のシグマ因子、アクチン遺伝子についてprimer setを設計し、PCR増幅後、スライドグラス上に配置してマイクロアレイを作成した。明条件で培養した細胞について、12時間暗処理後に明条件に移し、1時間後および6時間後の遺伝子発現の変化について、マイクロアレイを用いた解析を行った。その結果、全ての遺伝子について転写産物量の増加が観察されたが、一旦1時間後に増加した転写産物がさらに6時間後に増加するパターン(パターン1)と、一旦一時間後で増加した後に再び減少するパターン(パターン2)に大きく分類することができた。パターン1にはフィコビリゾーム遺伝子や光合成活性中心遺伝子、パターン2にはルビスコ遺伝子やABC transporter遺伝子などが含まれた。
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