遺伝子領域全体がグローバルな制御を受ける結果、これを含むクロマチン成分に差が生じて核内における局在が変化し、場の制御を受けると予想される。そこで本研究では、転写抑制因子KAP-1あるいはKRAZ-1/2が転写を抑制する場がセントロメア近傍ヘテロクロマチン領域ではないかとの仮説の検証を行った。Tagを付加した全長のKRAZ1および2などを、transfectionによりNIH3T3細胞で発現させ、蛍光染色したのち、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。その結果、(1)全長のKRAZ1および2は核内でdot様構造を形成する。(2)dotの分布はcentromeric heterochromatinに局在すKAP-1とHP1αのそれと一致する。(3)KRAZ1のcentromeric heterochromatinへの局在はKRABに依存し、転写抑制と相関する。(4)KAP-1のcentromeric heterochromatinへの局在にはHP1結合ドメインとoligomerizationドメイン(RBCC)が必要であり、転写抑制と相関する。(5)KRAZ1およびKAP-1のcentromeric heterochromatinへの局在および転写の抑制はhistone deacetylaseの阻害剤(TSA)で解除される、などの点が明かとなった。以上の結果から、KRAZと結合した制御対象遺伝子領域が、KRAZとKAP-1およびHP1との相互作用を介して核内において転写の不活性な場であるcentromeric heterochromatinに運ばれることが、KRAZ・KAP-1複合体による転写抑制メカニズムのひとつであり、この機構はhistoneの脱アセチル化に依存してと考えらる。
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