ロドプシン(明暗視に関わる光受容蛋白質)と、その相同蛋白質である錐体光受容蛋白質(昼間視、色覚に関与)の機能をアミノ酸残基のレベルで検討することにより、その機能発現メカニズムを検討し、構造-機能相関とその予測の手がかりを得ることを目指した。ロドプシンのX線結晶構造が解明されたとき、もっとも大きなトピックスの一つは、発色団(リガンド)を包み隠すようにβシート構造を形成している第2細胞外ループの存在であった。実際我々の解析によると、この領域にはいくつかの機能性アミノ酸残基が存在し、光受容蛋白質の構造や性質を制御していることがわかった。例えば、赤色感受性錐体光受容蛋白質ではこの領域にCl^-イオンが結合し、吸収波長を制御することにより赤色光を受容するメカニズムを提供している。我々は、このCl^-イオンの結合機構について分光学的手法により構造解析を行い、発色団との相互作用機構、吸収波長の制御機構を解明することに成功した。また、この部位には錐体光受容蛋白質で高度に保存されているプロリン残基(P189)が存在する。部位特異的変異蛋白質を用いた実験から、このプロリン残基が昼間視という錐体の生理機能に大きく関わっているアミノ酸残基であることを見いだすことができ、また、その構造変化も追跡することができた。 上記の残基は遺伝子構造上はエクソン3に存在し、エクソン2に存在する残基群と共に吸収波長制御、情報伝達効率などの機能発現に関与している。これらは立体構造上でも近傍に位置し、機能に関するcore domainを形成していると考えられる。また、このような光受容蛋白質における知見をもとに、サブタイプ間で保存性の高いアミノ酸が基本構造を構築し、それ以外の部位がそれぞれの蛋白質の個性を生み出していると考えることで、膜蛋白質の立体構造構築原理とその予測の手がかりが提供できると考えている。
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