既に開発した環状ゲノム比較法に更に改良を加え、ゲノム間の遺伝子配置の類似性について統計的有意性を推定することができるようにした。19種細菌ゲノムのorthologous遺伝子の配置情報を既存のデータベースから収集し、この方法によって、各ゲノム間でorthologous遺伝子の配置の数理的特性を解析した。その結果、ランダムな配置に対して相対的位置が統計的有意に維持された遺伝子群の存在が明らかになった。さらに、真正細菌ゲノム間で最も類似な配置を実現する方向は、2つのゲノムの複製開始・終止点が一致する方向であった。最近、近縁細菌のゲノム比較によって、複製点を対称軸とした遺伝子の移動が遺伝子再配置において最も頻繁に起こる遺伝子移動のパターンの一つである事が報告されている。この報告は、我々の方法の解析結果を支持する。複製点に対する対称移動が再配置の駆動力であれば、最も類似な配置は複製点が一致する方向で実現される可能性が高いからである。 線形ゲノム比較のために、関連遺伝子のクロモゾーム上の配置を比較する方法のプロトタイプを開発した。この方法によって、酵母ゲノム上の重複遺伝子について、それらの種類と位置を考慮して16の酵母クロモゾームを比較した結果、7つのクラスターにクロモゾームが分類された。このことは、従来提唱されている、現在の酵母ゲノムが2倍体であるという仮説を支持すると共に、祖先型のクロモゾーム・ペアを具体的に示唆する。 このように、従来の遺伝子配列比較に基づくボトムアップのアプローチに加え、遺伝子配置に基づくトップダウンのアプローチの開発は、ゲノム比較において新しい巨視的な観点を提供し、新しい知見を得ることができた。また、環状ゲノム比較の方法を更に多数のゲノム間の多様な関連遺伝子群に適用すると共に、線形ゲノム比較においても巨視的且つ網羅的な方法を開発・改良する必要性を示唆する。
|