鳥類胚の中枢神経系の発生過程において、Numbという細胞内因子が分裂中の神経上皮細胞で基底膜側に非対称に局在し、膜受容体であるNOTCH1の細胞内領域と相互作用して、そのニューロン分化抑制活性を抑えることがわかっている。また、神経堤細胞においてもNumbが不等分配される。過剰発現実験の結果などから、Numbを受け取った娘細胞はニューロンに分化し、受け取らなかった娘細胞はNotchの活性化によって未分化状態に留まると考えられる。 Numbはアミノ末端側にリン酸化チロシン結合領域、カルボキシ末端側に複数のSH3結合領域様配列を持つ。これらのモチーフを参考に、NumbのcDNAの断片とGFPの融合タンパク質の発現ベクターを構築し、培養細胞でその発現を確認した。まな、中間径フィラメントの一種であるTransitinが神経上皮細胞や神経堤細胞でNumbと酷似した細胞内分布を示すことを見い出した。そこで、培養細胞でNumb断片-GFPとTransitinを同時に発現させたところ、Numbのカルボキシ末端側とTransitinが細胞骨格様の細胞内分布を示した。このことから、NumbとTransitinは複合体を作っており、TransitinがNumbの細胞内局在を制御している可能性が考えられた。 神経上皮細胞や神経堤細胞の非対称分裂の際にNumbを受け取った娘細胞と受け取らなかった娘細胞の分化運命を調べるため、倒立型蛍光顕微鏡やCO2インキュベーションチャンバー、CCDカメラを含むタイムラプスシステムを導入した。繊維芽細胞にGFP発現ベクターを導入し、細胞が生きたままの状態でGFP発現細胞を観察し、その細胞系譜を追うことに成功した。このシステムを用いて、Numb-GFPを導入した神経上皮細胞や神経堤細胞の分化運命の解析を開始した。
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