1.目的及び背景 本研究の目的は細胞骨格蛋白質の一つであるタウの遺伝子変異が、痴呆症をいかにしてひきおこすかというメカニズムを解明することにある。近年タウにおける遺伝子変異が家族性Frontotemporal dementia and parkinsonism(FTDP)を引き起こすことが明らかになった。今回我々は、FTDPにおける変異タウ遺伝子の発現様式が正常に比しどの様に変化し、タウ蛋白質の機能が遺伝子変異によりいかに修飾を受けるかを検討した。 2.方法 正常タウ遺伝子及び変異タウ遺伝子をタウ遺伝子を培養細胞(SH-SY5Y cells、CHO cells)に導入した。さらにタウの発現様式がアポトーシスの誘導にどう影響するかを検討した。 3.結果 今回2種類のタウの変異を用いたが、エクソン12に存在する変異V337M、及びエクソン10に存在するN279K、両者ともアポトーシスを生じやすくさせたが、その度合いV337Mの方が大きかった。また血清除去による細胞内カルシウム濃度上昇は変異タウを導入した細胞において有意に増強されていた。またこれらの細胞から記録した膜電位依存性Ca電流において、電流のランダウン現象は、変異タウを導入した細胞において顕著に抑制され、大きな電流量のCa電流が継続して記録された。 4.考察 変異タウを導入した細胞におけるCa濃度上昇が他の細胞群より著明で、このCa上昇が変異タウによるアポトーシス増強作用の一因であると考察した。さらに変異タウの存在下では活性化したCaチャンネルがより長時間開口を続けて、それにより、より多くのCaイオンが細胞内に流入することが示唆され、これが変異タウ導入による細胞内Ca上昇のメカニズムの一つであろうと考えた。 以上より変異タウによる細胞内Caホメオスターシスの変化がFTDPの病因のひとつになっていることが示唆された。
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