生物には概日リズムとよばれる、行動や生化学的活動を支配する24時間に近い周期を持つ活動リズムが見い出される。社会不適応の一形態である概日リズム障害には、睡眠相後退症候群や、非24時間型リズム症候群、そして時差ぼけ等がある。哺乳類の場合、概日時計中枢は脳視床下部の視交叉上核(SCN)に存在し、SCNの日周性を伴った神経活動出力、或いは、液性因子の分泌により末梢組織を支配して概日リズムを形成している。哺乳類の時計遺伝子Period1(Per1)の転写翻訳産物量は、マウスSCNで明暗及び恒暗条件下、明期で高く暗期に低い自律的な日周変動を示した。また、暗期における短時間の光照射により、その発現が一過的に誘導された。そして、幾つかの末梢組織(網膜、肝臓、腎臓、筋肉)においてもその発現は約6-12時間遅れた位相で振動した。これらの事実は、Per1の発現制御機構が概日リズム形成及びその光同調機構と強い関連を有すること、そして、Per1の発現量の経時変化を、中枢と末梢組織それぞれの計時情報の指標として用い得ることを示す。まずPer1の発現をin vivoでモニターするためにPer1::Iuc融合遺伝子のトランスジェニック動物を作製した。得られたPer1::Iuc動物のSCNスライス培養系では、Iuciferase活性が約2ヶ月間約24時間の周期で発現振動した。また、いくつかの末梢組織(肝臓や筋肉)の培養系でも、それぞれの時計計時位相を忠実に反映したIuciferase発現日周リズムが2-6周期保たれた。さらに、Per1を強力なプロモータにより強制発現させたトランスジェニック動物を作製した。Per1形質導入体の行動及び体温リズム周期は、長周期型または無周期型になり、さらに光同調性を失っていた。
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