Research Abstract |
APPはアルツハイマー病患者の脳に検出される老人斑の主成分β-アミロイドの前駆体タンパク質である。APPは、あらゆる組織で発現しているタンパク質であるので、脳・神経系に特有の代謝機構を解明することが、Aβの生成機構とAPPの生理機能を理解する上で重要である。本研究では、APPの神経特異的な代謝機構を解明する目的で、APPの神経特異的リン酸化に着目して解析を行った。この結果、以下のことが明らかになった。APPの細胞質ドメインは神経特異的なリン酸化酵素Cdk5によって、リン酸化を受ける事を明らかにした。リン酸化を受けるAPPは、後期ゴルジ体以降の分泌過程と細胞膜上に存在する成熟したAPPである。リン酸化の生理機能およびAβ生成に係わる機能を解明する目的で、リン酸化サイトをノツクインしたマウスを作成した。このマウスは、従来の129系統のマウス由来のES細胞を相同組み換えしたものではなく、BL/6マウス由来のゲノムをターゲティングベクターとしてBL/6マウスのES細胞に相同組み換えを行い作成した。このため、遺伝的背景が均質であるので、神経機能解析やGeneChip解析でより正確な測定が可能となった。リン酸化サイトThr668(APP695 isoform)をAla,Aspにそれぞれ置換した変異マウスを2系統作成した。Affymetrix社のGeneChipを用いて、野生型に対して発現が変動している遺伝子の測定を行い、APPリン酸化の下流で機能する遺伝子の探索を行った。約13000の遺伝子のうち99%は有為な変動を示さなかった。これは、このマウスの遺伝的背景の均質さを示すものである。約1%の発現変動した遺伝子のうち、発現低下が認められた遺伝子には神経活動に係わる遺伝子群が含まれている事を明らかにした。 今後、これら遺伝子の発現変動が老化によって変化するのか、人の病態では変化しているのかを明らかにする予定である。また、変異マウスの老化に伴うAβの生成量の変化を定量すると共に、形態学的な病変の有無に関して検討を行う。
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