Research Abstract |
三次元的な視覚情報の処理経路について,V1,V2などの初期視覚野での視差検出細胞についての知見は得られているが,より高次な視覚領域での三次元的形態認識にいたる視覚情報処理機構についてはまだ不明な点が多い.我々はこれまでに面方位識別ニューロンが種々の両眼視差信号を統合して平面の三次元的な傾きを識別していることを明らかにしてきた.一方,ヒトの心理物理実験は三次元形態の認識に透視画法による輪郭や陰影などの単眼性(絵画的)手がかりも重要であることを示している.本年度の研究では,三次元形態識別における絵画的手がかりの役割を明らかにするために,慢性サルのニューロン活動記録実験でCIP領域の面方位識別ニューロンの反応に透視画法による輪郭がどのように関与しているのかを調べ,さらに機能的MRI(fMRI)によって陰影から三次元形態を識別するヒトの神経機構について調べた. 立体図形を呈示するステレオディスプレイを使って,見本刺激と数秒の後に呈示されるサンプル刺激で面の三次元的な傾きを識別し,同じならGo,違っていたらNo-go反応をする遅延見本合わせ課題をサルに訓練した.刺激にはa.面の傾きを視差信号と透視画法による輪郭によって表現した立体図形,b.ランダムドットステレオグラムによる立体図形,c.aから透視画法の要素を除いた立体図形,d.透視画法で表現した立体図形を用いて,各刺激に対するニューロン活動を比較した.CIP領域の面方位識別ニューロンの多くは,視差手がかり(D)と透視画法手がかり(P)に基づいて傾きを識別するタイプ(DP type,19/35)か,視差手がかり基づいて傾きを識別し,透視画法手がかりの影響をうけないタイプ(D type,11/35)であり,透視画法手がかりに基づいて傾きを識別するタイプ(P.type,2/35)はきわめて少なかった.また,DP typeのニューロンでは視差手がかりと透視画法手がかりが組み合わされた刺激に対する反応のほうが透視画法手がかりだけの刺激に対する反応よりも強く,また,各刺激での面の傾きに対するチューニングを比較すると透視画法手がかりだけの刺激ではチューニングがずれることがわかった.以上の結果はCIP領域での面の傾きの識別のために両眼視差手がかりと透視画法の絵画的手がかりが統合されているが,透視画法手がかりの効果は視差手がかりよりも小さいことを示唆している.絵画において陰影は表面の凹凸を表現するのにきわめて効果的な手法である.fMRIを用いて陰影で表現された凹凸の識別に関与する脳領域を調べたところ,右側の頭頂間溝後方部に活動が見つかった.この領域は過去の研究で三次元形態の識別に関与する領域であることがわかっており,ヒトにおいても三次元形態識別のために視差手がかりと絵画的な手がかりの統合が,頭頂連合野領域で行われる可能性が示唆された.
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