Research Abstract |
われわれは,口腔扁平上皮癌細胞株OSC-20とその癌細胞を特異的に認識するCD4陽性T細胞のラインTcOSC-20の樹立と,TcOSC-20の認識する抗原は,OSC-20のHLA-DR08032に提示されている可能性が高いことを報告してきた。本年度は,これらの自然な形で提示されている抗原ペプチドの癌細胞からの生化学的単離,同定と,TcOSC-20に認識されるCD4T細胞エピトープの解析を進めた。 TcOSC-20の認識する抗原を同定するために,以下のようなストラテジーを用いた。即ち,癌細胞を大量培養し,発現する抗原を酸抽出し,得られた細胞抽出物をmass spectrumにより解析し,そのデータをもとに,ペプチドを生化学的に合成し,適当な抗原提示細胞にパルスさせた後,自家T細胞を用いて,その反応性を検討するというものである。 酸抽出法に関しては,基本的にわれわれの研究室においてかつて胃癌抗原の同定に用いた方法を用いた。抽出したライセートをRP-HPLCを用いて2回にわたって精製し,各フラクションについて,TcOSC-20による反応性を検討した。この結果,第2精製におけるフラクション6には,陽性コントロールである自家癌細胞にも匹敵する,極めて高い特異的細胞傷害活性が認められた。このフラクション6をもとに解析をさらに進め,nano-LC/MS/MSによるmass spectrum解析とOWLデータベースを用いて得られたデータの検討を進めた結果,以下の異なる6種類のペプチドを同定しえた。即ち,histone H2A.1,protein kinase C inhibitor-1(C末の異なるものとして2種類),cytokeratin 14,histone H2B.1,そして,human alpha-enolaseである。このうち,histone H2A.1,protein kinase C inhibitor-1,human alpha-enolaseは既に報告されている,HLA-DR8に対する結合モチーフを有していた。これらの解析結果をもとに,各ペプチドを生化学的に合成し,マウスL細胞にヒトHLA-DR8遺伝子を移入して得た,LDR0803細胞に各ペプチドをパルスし,TcOSC-20による反応性をそれぞれ検討した。その結果,TcOSC-20はhumanalpha-enolase由来の17アミノ酸に対する反応性が有意に高いことが示唆された(Int.J.Cancer誌,論文投稿中)。これは悪性黒色腫以外で,CD4陽性T細胞が認識する癌抗原に関する初めての具体的な報告である。
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