Research Project
Grant-in-Aid for Encouragement of Young Scientists (A)
前年までの研究で、今回崩壊点検出器として用いようとしていた高速撮像システムの読み出し速度が、128×128画素数で1ミリ秒のオーダーで時間がかかってしまうことが判明した。そこで今年は現在使用されている崩壊点検出器よりも精度を上げる為に要求される仕様を、シミュレーションを用いて研究することとなった。現在の代表的な崩壊点検出器は高エネルギー加速器研究機構で行われているBelle実験で使われているもので、崩壊点分解能としてはB中間子におけるCP非保存を測定するために使われる崩壊様式であるB→/ΨKの場合で100ミクロンに到達できていない。そこで、崩壊点分解能の目標値を100ミクロンと仮定した。この崩壊点分解能を達成するためには、出来るだけビーム軸に近いところにこのシステムを設置する必要が出てくる。なぜならば、崩壊点分解能を決める要素として、検出器自体が持つ位置分解能と粒子が検出器の中で受ける多重散乱の二つがあるからである。この内、前者を良くすることは難しく、その為後者の影響をできるだけ押さえる必要がある。しかし、ここで別の問題が生じる。それはビーム軸に近づければそれだけビームに付随する電子などの背景事象が増えることである。幸い検出器自体としては、このビーム起源の放射線に対して耐性があるのだが、背景事象の増加の為に、読み出さなければならない画素も増え、結果的に読み出し速度が飛躍的に増えてしまう結果となった。しかし、これらの背景事象と目指す崩壊様式の事象には時間分布によって違いが出る。つまり背景事象を起こす粒子(比較的低エネルギー)は常に検出器に入り、一方目指す崩壊様式はある短い時間の間に比較的高エネルギーの複数の粒子が検出器に入る。そこで、検出器に入射した粒子の時間分布を取り、ある短い時間に高いエネルギーを持つ粒子の固まりがある時にだけデータを取得し、それ以外のデータは背景事象として捨てられるように出来れば崩壊点検出器として使用できる可能性がある。この方法で最終的には97ミクロン程度の分解能を実現できると思われる。しかし、これには更なる検出器の改良が必要となることも判明した。