Research Abstract |
昨年度,臨床分離株5株(E,J1〜J4)をBALB/cマウス(6週齢,メス)に各々1x10^<5>PFU/mouseずつ経腟感染させ,各株における生存率について4週間,経過観察した結果,生存率は,E株:70%,J1株:40%,J2株:30%,J3株:20%,J4株:0%であった.今年度はこれらの株のうちE,J2,J4株の3株を用いて以下の実験を行った.まず,経膣感染におけるウイルス感受性が性周期により変化することを確認する目的で,ウイルス接種前にプロゲステロン(Depo-Provera(DP))あるいはエストラディオール(Estradiol(E))を投与した.各株をDP群をE群の2群にわけて,各々10匹ずつ計60匹のBALB/cマウス(6週齢,メス)に1x10^<5>PFU/mouseずつ経膣感染させ,各群における神経症状の有無や生存率について4週間,経過観察した.次に,経時的に病理組織学的変化やウイルスの局在を観察する目的で,前述と同様の方法にて脊髄炎モデルマウスを作製した後に,ウイルス接種後1,3,5,7,10日でマウスを解剖した.そして,膣粘膜,下部消化管神経叢,後根神経節あるいは脊髄における病理組織学的およびHSV抗体を用いた免疫組織化学的検索を行った. 結果:DP群における神経症状は,接種後8〜10日目に後肢麻痺が出現し,9〜11日目に死亡する例と,接種後8日目に後肢麻痺が出現してから13日目まで症状が持続した後に14〜15日目に死亡する例の大きく2つに分かれた.生存率は,E:80%,J2:70%,J4:40%であった.免疫組織化学的には,接種後1日目に既に膣粘膜上皮の一部にウイルス感染細胞がみられ,接種後3〜5日目には,脊髄や後根神経節への感染が確認された.同時に,下部消化管粘膜下筋層内の神経叢への感染もみられた.一方,E群では,3株とも臨床症状に全く変化がみられず,生存率も全株で100%であった. 結論:マウスでは一般に,週齢と共にウイルス抵抗性になるため,性ホルモン接種はウイルス感染実験に有用であると考えられた.病理組織および免疫組織化学的には,膀胱や下部消化管粘膜下神経叢への感染が確認できたが,膣粘膜からの直接感染なのか脊髄を介しての感染なのかは明らかにならなかった.感染が成立したマウスでは,いずれの株でも神経向性を示し,脊髄炎・脳炎により死亡したが,死因は脳炎のみならず,下部消化管の麻痺症状も関与していると考えられた.
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