Research Abstract |
本研究では,環境政策,とりわけ排出権取引制度に焦点を当てて,環境施策としての有効性を高める上での情報の役割について考察した. まず,米国における二酸化硫黄排出許可証の取引システムについては,行政当局による排出量モニタリングや排出権移動調査の徹底が行政費用を押し上げており,理論上のメリットである総費用の最小化は必ずしも達成されていないことが判明した。ただし,排出権市場の開放や内部取引の容認,将来的な政策目標の早期情報開示等により,規制を受ける側の目標排出量達成費用を節減する工夫はなされている. 一方,国際的排出権取引制度の政策的課題として,(1)各国における排出量に関する情報の非対称性,(2)排出権移転に関する情報管理,(3)排出規制遵守の責任の明確化,の3点を抽出した。 次に,直接規制や環境税制度とのポリシー・ミックスとしての排出権取引制度の効果であるが,国内制度としての排出権取引制度と国際制度としてのそれとは,条件を異にする.まず,国内制度としての排出権取引制度は,アメリカの例にも見られるように,厳しい総排出量規制のもとで初めて環境政策としての効果を発揮するものであるため,直接規制政策との連携は欠かせない手法である。また,個々の排出源に対する排出量上限設定については,モニタリング費用が増大するため経済効率性からは否定される.しかし,確実な汚染制御のために必要とされる場合もあり,少ない費用で行えるモニタリング方法の開発が打開策となり得る. 国際制度としての排出権取引制度については,各国内での直接規制や環境税制度による総排出量管理が必要不可欠となる.その上で,国際的な排出権の移動を把握することが求められるため,排出権市場の管理費用は膨大な規模となる.この費用負担の割当と,排出権取引量の上限設定が国際間公平の問題につながるため,これらを管理する国際的機関の設置が求められる.
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