Research Abstract |
遺伝子治療は,先天的な遺伝子疾患にとどまらず,癌やエイズなど後天的疾患に対する画期的な治療法として期待されている。現在の遺伝子治療では,ウイルスの生活環を利用した,ウイルスベクターが主に使用されている。しかし,生体に対する安全性の問題,ベクター作製が複雑であるなどの問題が指摘されている。そこで,本研究では,安全かつ合成が比較的簡便なオリゴペプチドを基本骨格とした,完全合成型遺伝子治療ベクターの創成を目的として,DNA結合性オリゴペプチドを合成し,遺伝子治療用ベクターとしての機能を検討した。 昨年度までに我々は,DNA結合性ペプチドの候補として,ロイシンジッパー型のDNA結合因子である,Fos-Jun複合体のDNA結合領域に着目し,DNA結合性オリゴペプチド(以下,F/J-P)を合成し,そのDNA結合性およびヌクレアーゼからの保護作用,更に細胞内への導入を試みた。その結果,F/J-PはDNAと結合し,ヌクレアーゼからの保護作用を示した。加えて,F/J-PとGFP遺伝子の複合体を細胞内に導入したところ,GFP遺伝子の発現が認められた。 本年度は,DNA結合能の更なる向上を目的として,F/J-Pを構成するアミノ酸残基を改変し,ペプチド分子がα-ヘリックス構造をとるように再設計を行い(以下,NK-2M3),そのDNA結合能およびヌクレアーゼからの保護作用の検討,細胞毒性の検討を行った。NK-2M3のCDスペクトルを測定した結果,50%メタノール溶媒中でのα-ヘリックス形成率は約50%であった。更に,PBS中におけるCDスペクトルを測定したところ,約20%のα-ヘリックス形成率を示した。PBS中で,温度条件の変化によるα-ヘリックス形成率の変化を検討したところ,興味深いことに,0℃で約40%のα-ヘリックス形成率を示し,NK-2M3は,F/J-Pと比較してα-ヘリックスを形成しやすい事が示された。さらに,in vitroにおいて,F/J-Pと同程度のDNA結合能とヌクレアーゼからの保護作用を示し,加えて,顕著な細胞毒性は認められなかった。
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