Research Abstract |
情報ネットワーク社会の到来とともに,我々を取り巻く情報環境,情報空間は,質・量ともに大きく変質してきた.ここ数年,急速に変化しつつある情報空間を,使いやすく豊かな空間にする研究は緒についた段階にある.特に,情報空間に存在する情報を有効に活用するためには,我々人間の手助けをしてくれるシステムが情報空間に存在していることが望ましい.そして,そのシステムとの対話は,音声を通じて自然言語で行なうことが理想的である.なぜなら,自然言語は我々人間にとって最も自然で表現力豊かな対話の手段だからである.コンピュータによって言語や音声を理解することは,人工知能の研究と密接に関係している.しかし,1970年代以来の言語理解の研究を振り返って見ると,1970年代初期にMITで行なわれた研究を除き,行動という視点が欠落していた.機械翻訳,情報検索,文書分類・要約などでは,主として書き言葉の文書を対象としていたが,これらはいずれも言語理解は困難な研究課題であるとして,むしろそれを避けようとする研究の姿勢や傾向が見られる.本研究課題の目的は,主として話し言葉による対話と,対話によって生ずる相手の行動という視点から,音声を含む言語理解の機構を解明し,最終的には人間の知能,知的行動の原理の一端を明らかにしようとする新しい学術の創成を行うことである. この研究目標を達成するために,「言語理解と行動制御」の研究計画では,次の4つの研究課題に大別して研究を行なうこととした. 1)言語理解の機構に関する研究 2)行動機能が豊富な3次元ソフトウェアロボットの構築 3)言語と行動制御に関する理論の構築 4)音声対話によるソフトウェアロボットの行動制御システムの試作 本年度は,上記の研究を円滑にすすめるために,同研究分野の現状や,いまだ解決されていない問題点などについて調査を行った. 1)については,まず言語理解の機構を計算機モデルの立場から分析し,問題点を明確にすることを試みた.また,音声認識・理解研究の現状と展望について調べた.特に,話し言葉の特徴を分析し,音響レベルから音声対話におけるこれまでの技術,さらにはジェスチャーなどパラ言語的な現象についても調査を行った.自然言語処理研究の現状については,特に,これまで十分に研究がなされてきたとはいえない日本語の省略と照応現象の調査について,詳しく調査した.省略と照応現象は,これまで主として書き言葉に対して行なわれてきたが,話し言葉に対する省略と照応現象についての考察も行った.2)については,ソフトウェアロボット研究の現状と展望を述べる.特に,人間とのコミュニケーションによるロボットの行動生成,画像・映像メディアのための画像処理および情報伝達と各種メディア,人間が行動可能な仮想環境に関する研究,表現性豊かな発話生成,ソフトウェアロボットの音声合成技術,グループ会話における状況理解と身体表現,などについて,既存研究の現状と問題点を詳細に調べた.3)については,言語理解と行動を統合するための新しい言語理論を比喩の立場から検討している.言語理解と行動に関する統合的な理論の構築をするために,比喩理論に基づいて,比喩の対象や場面の理解,言語化,知識の獲得,構造,利用について検討した.4)については,プリミティブなレベルではあるが,音声対話によるソフトウェアロボットの行動制御システムのプロトタイプ試作を行ない,問題点の抽出を試みた.音声対話で頻出する省略や照応現象における問題点を分析すると共に,その解決策も探った.これは,本研究計画で取り上げた研究成果の評価が必ずしも容易ではないと考えたからである.そこで,チューリングテストの考え方を採用し,音声対話によりロボットの行動制御を行なうプロトタイプシステムを実際に構築し動作させることにより,研究成果が妥当であるかどうかを判断し検証しながら研究を進めることにした.
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