Research Abstract |
タイラーウイルス持続感染による脱髄は,ヒトの脱髄疾患である多発性硬化症の実験モデルとして用いられているが,その持続感染や脱髄の詳細な機構は解明されていない。本年度の研究では持続感染や脱髄を引き起こすDA株を代表とする慢性亜群でのみ特異的に産生されるL^*蛋白のin vitroにおける性状を調べ,持続感染および脱髄におけるこの蛋白の役割を,主な持続感染の場であると考えられるマクロファージ/ミクログリア系の細胞を用いて検討した。その結果,L^*蛋白はマクロファージ/ミクログリア系細胞におけるウイルス増殖に重要な蛋白であり,L^*蛋白を産生しない変異株DAL^*-1はこれらの細胞では増殖できないことが明らかとなった。精製ウイルス粒子を用いた解析結果からは,L^*蛋白はウイルス粒子内には取り込まれず,tubulinなどの微小管とN末端側で結合していることが明らかとなった。またミクログリア樹立細胞株Ra2において,ウイルス増殖のみられなかったDAL^*-1株において,DA株に比べ有意な死細胞の増加が認められた。この細胞死の原因を調べたが,アポトーシスを示唆する所見は得られなかった。このことからL^*蛋白は,宿主Ra2細胞の細胞死をアポトーシス抑制以外に機序で抑制し,ウイルス増殖あるいはウイルスゲノムの維持に有利な環境を作り出しているものと考えられた。さらに各種サイトカインやその受容体のmRNA発現をRT-PCR法により検討した結果,脱髄をきたすDA株感染Ra2細胞は脱髄をきたさないDAL^*-1感染Ra2細胞に比べて炎症性サイトカインmRNAの発現が高く,この差異が免疫性脱髄の発症に関与している可能性が示唆された。
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