Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
本研究の準備段階においてファラオニスハロロドプシン(pHR)T126D変異体には顕著な機能変化の兆候は見られなかったものの、T126Eにおいては野生型にはないがBRには見られるMと呼ばれる準安定状態を光反応中にとることが分かった。このM中間体は反応中心がプロトン化されていることを意味する。前年度の結果より、T126E変異体が、外界のプロトンをタンパク質内に取り込み、反応中にそれを放出するプロトン移動を行なうことを、高感度pHセンサーを用いて測定することに成功した。本年度は、このプロトンのやりとりが膜を隔てて行なわれているかを、T126E変異体を発現している大腸菌膜の反転膜ベシクルを作成し、光照射時の外界のpH変化を測定することで確認したが、残念ながら有意なpH変化を検出することはできなかった。接触媒体とのプロトンのやりとりをしているが、膜を隔てたpH勾配を検出できないことは、類似タンパク質のファラオニスセンサリーロドプシンII(pSRII)と同様に、BRで必要とされるプロトン輸送経路(具体的には水素結合ネットワーク)が形成されていないことが原因としてあげられる。こうした分子内環境を整える目的で多重変異体を作成、同様の測定を試みたがむしろ外界とのプロトン交換活性は低下してしまった。結論として、プロトン輸送とクロライド輸送の差異を明らかにするモデルとして期待されたpHR T126E変異体であったがsHR同様にプロトンポンプは成功しなかった。このことは、クロライドイオンポンブに必要とされる分子内機構は、プロトン輸送に係るそれに比べて単純でよいということを強く示唆するものである。