Research Abstract |
加齢に伴ってミトコンドリアDNA(mtDNA)に点変異や欠失が蓄積することが報告されており,これらの欠失の1つは同じ配列の領域に現れることからcommon deletionと呼ばれている。本研究では,健康な若者を対象に,持久的運動を行うことによって白血球中のmtDNAにこの欠失が出現するかどうかを探った。 第一の実験では,2名の被験者に3日の休息後,トレッドミルによるランニング運動を行った。1名の被験者は連続7日間,もう1名の被験者は1日だけ各30分のランニング運動を行い,その後は運動を避けた。その結果,運動前のサンプルからは,欠失は見られなかったが,運動後2〜3日後に欠失が出現し,5日後に消失の傾向が見られた。 第二の実験では,5名の被験者に4日の休息後,自転車エルゴメータを用いて,60Wの負荷で60rpmの速度で30分の運動を連続3日間行い,その後は運動を避けた。その結果,運動前のサンプルには全員に欠失が認められており,運動後翌日のサンプルにも全員に欠失が見られた。しかし,運動後2日後,3日後のサンプルから欠失が消失し,さらに数日のリカバリー期間中に5名中3名で再び欠失が現れた。 第三の実験では,3名の被験者に,7日間の休息後,40Wと80Wの二段階で負荷を変え,60rpmの速度で30分の自転車エルゴメータ運動を1日だけ行い,その後は運動を避けた。その結果,80Wの運動負荷の場合には,運動前から全員に欠失が見られ,運動後2日目のサンプルからも全員に欠失が見られた。しかし,運動後3日目のサンプルからは全員欠失が消失した。一方,40Wの運動負荷の場合には,運動前には2名で欠失が見られたが,運動後2日目および3日目のサンプルからは,欠失が見られなかった。 これらの結果をまとめると,1)mtDNAの欠失は,若い健康な者であっても,持久的運動負荷によって出現する,2)欠失は運動直後ではなく,2〜3日後に出現する,3)運動負荷40Wと80Wの間に欠失が出現する閾値が存在し,日常生活においても閾値を超えることがある,4)欠失は蓄積せず,しばらく休息をとることによって消失する,5)適度な運動によって,欠失を消去するシステムが活性化する可能性がある,ということが明らかになった。
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