Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
本研究では、戦前期日本商社における輸送業務の展開を近代日本の海運市場の成立・変容との関連において実証的検地から分析することを目的としている。本年度の研究を通じて得られた知見は以下の通りである。商社海運業務は、日露戦後から第一次大戦期、両大戦間期とその内容を変化させたが、そうした変化は、前提となる海運市場の変容によって強く規定されていた。わが国海運市場、特に不定期船海運業は、日露戦後期に形成され、第一次大戦期に確立した後、両大戦間期に変容した。すなわち、日露戦後期には日本船の急増と市場の拡大によって、各地間で発生する貨物輸送需要を最適に組み合わせて効率的に輸送する必要性があったが、そうした最適化を達成するための制度が未整備であり、三井物産に代表される総合商社は、輸送需要の調整を内部化するための制度として社内輸送部門を形成することとなった。第一次大戦期になると神戸において大量の貸船主義船主、海運仲立業者、大手傭船主が多く発生し、神戸はアジア海運市場の結節点となった。輸送需要の最適化は市場において達成されることが可能となったのである。そのため、当該期に創設された商社の多くは、内部輸送需要を最適化する目的からではなく、高騰する運賃収入を収受する目的から海運部門を形成していった。両大戦間期になると、不定期船の定航化が進むとともに不定期船向け貨物の一部も定期船で運搬されるようになった。こうした時期に既設の商社海運部門も社外貨物の比重を高めるとともに定航化を進めていった。また、商社取扱貨物輸送の一部は、社外の定航会社からの運賃割引を通じて、低運賃の実現を模索するようになっていった。しかし、商社海運部門の場合、完全な定航化と分社化に至るケースは稀であった。というのも定航化と併せて、輸送取引の固定化が進展しており、メーカー(荷主)側が、固定的取引を基礎として輸送への関与を強める動きが一部で進められていたからである。すなわち、石炭、鉱石、木材等のメーカーの一部では、輸送業者との固定的・階層的取引関係を基礎に輸送の効率化を追及する動きがみられた。また、砂糖のようにカルテル団体が輸送交渉を重要な機能とするケースもみられた。こうした動きの中で商社海運業務においても、荷主として輸送機能を内部化していることが他社との競争上必要な場合があり、その結果、輸送機能の内部化は、一部貨物輸送(例えば石炭)においては、却って重要性を増す結果となったのである。
All 2004 Other
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エネルギー史研究 19号
Pages: 29-45
110006955269
流通システムの国際比較史(小沢勝之編著)(文眞堂)
Pages: 251-267
三井文庫論叢 38号
Pages: 1-35
40007043648